159: ◆EpvVHyg9JE[saga]
2018/03/12(月) 17:47:22.71 ID:EIDsY1AH0
父のことが好きだった。
物心ついた頃から、父は遠征のたびに王子を連れていってくれた。
馬を駆り、ふたりで様々な景色を眺めた。
天へ落ちる虹色の滝、ガラスのように透き通った鍾乳洞、湖面から一斉に飛び立つ魚の群れ。
見るものすべてが幻想的で、新鮮だった。
父が変わったのは、玉座に腰を下ろしてからである。
権力に固執するあまり、自分以外の人間を疑うようになったのだ。
そのくせ、奸臣の巧みな告げ口は信じてしまう。
証拠のない讒言が横行し、有能な文官が何人も処刑台送りにされた。
召使いと密通したかもしれない、という不確かな憶測だけで大唐国の公主さえ、首を斬り落とされた。
王を諫める者は消え、妃もハレムの女達も、誰もが国王を恐れた。
しかし、王子だけは未だに尊敬のまなざしを向け続けていた。
優しかった昔の父に戻ってくれると信じて。
また一緒に、世界を旅してくれることを夢見て。
256Res/223.00 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20