58: ◆3s4IbQehY.[saga]
2017/12/10(日) 15:45:46.62 ID:2/dn233N0
「……え?」
『つまり、彼女自身が罪を犯した訳ではない 罪を犯したのは別の誰か』
『その罪が大きな罪か小さな罪かは今の時点では置いておくが、その可能性が高い』
同情、もしくは共感。不遇な境遇な人間に対して、誰でも一瞬は抱くであろう情。
それは相手にたとえ非があったとしても、場合によってはそう思われる。
ミカンさんは、本来“夢限抱羊が憑いていた者”に何かしらの情を持った。
結果、怪異は憑いていた人間から彼女へ移った。単純に言うなら、乗り換えた。
そして、彼女はその自分へ乗り換えた怪異に憑かれ、今も昏々と眠り続けている。
これが罪の償いというのだろうか。彼女でないにしろ、罪人の罪の償いなのだろうか。
『だが、問題は本来怪異が憑いていた人間だね もしかしたら人間でない可能性もあるが』
「えっ?でも、今怪異が憑いているのはミカンちゃんで……」
『だからこそ厄介なんだよ、今回の場合彼女をどうこうしても彼女は目覚めない』
「それは、どういう意味だい…?」
『怪異が憑いた理由は“その人物が罪の意識に苛まれていたから、罪悪感を持つから”』
『しかし、今は“その人物に同情し自分に罪悪感を持ってしまった人に憑いている”』
『これを解決する為には、元々憑かれていた者に自分の罪を吐露してもらうしかない』
同情する者にはごく稀に、自分に罪悪感を抱いてしまう場合がある。
彼をどうする事もできなかったのか。もっと他に何か出来たんじゃないのか。
自分には、それを察知して、防止して、何事もなく終わらせる事ができたのではないか。
といってもこれはその人物が持つ独りよがりな考えだけに、当事者は与り知らない。
自分をどうする事もできなかった、などと後悔している人がいるなど知る由もないのだ。
だからこそ、その人には自分が犯した罪を吐きだし、謝ってもらうしかない。
自分がこんなことをしたのは君のせいじゃない、だからそう後悔しないでくれ、と。
『それで、コトネちゃん達は心当たりあるかい?彼女が同情しそうな子』
「えぇ…そんな事突然言われても、いなかった………と思います」
「彼女の周りで最近何か大きな事件があったなんて聞いてないからね」
罪、というのはその者が過ちと思っている自分の行動にして、過去である。
その者が犯した罪の全てが罪足り得るとは言い難い。実際、彼女がそうなのだ。
自分は何も気付けずに、何もできなかったという罪を感じたミカンさんが、その例だ。
何もできなくて事態が悪化したのと、何もしなくて事態が悪化したのとでは違う。
では、彼女は何にそこまでの罪の意識を感じたのだろうか。一体誰、に。
「…………あ」
「リリィちゃん?今度はどうしたの?」
何もしなかった。否、本来自分がするべき事をしなかった。放棄した。
それをした人物が、いやそれをした者が、いた。
過去の自分の種族が、その怪異と同一視されるように描かれたのも含むだろう。
けれど、これは間違いかもしれない。実際にあの子は病気だったのかもしれない。
だが私の考えが合ってるなら、彼女はそうかもしれないと薄々気付いていたのだろうか。
そして、そうさせてしまったのはそれに気付けなかった自分のせいだと思ったのか。
彼女達の間にどんな思いが錯綜していたのか、私は知らない。知る権利がない。
だからこそ、なにも知らない私が今も頂上にいるであろう彼女に伝えに行くのだ。
「…ちょっと、行きましょう」
「え、行くってどこに?」
「あそこです」
そうして指差した建物の階段を駆け上がり、梯子を上り、頂上へ着き。
私達が来るのを予見し、あるいは待っていたかのような彼女に、私は切りだす。
「私達と一緒に、来てもらえますか」
「………パル」
分かってしまえばなんてことない話だった。くだらないと思う人もいるだろう。
けれど、現実ではそうなのだ。ミカンさんはそのせいで眠っているのだ。
ミカンさんが同情したのは、罪の意識を抱いたのは、デンリュウ。
彼女が“アカリちゃん”と呼んでいた、灯台にいるポケモン。
本来なら、毎日欠かさず海に光を与えているはずだったポケモン。
始まりは小さな事だった。ポケモンもここまで話が大きくなるとは考えなかったはずだ。
けれど、これは起こるべくして起こった話だ。物語だ。
だからこそ、このポケモンなしでこの物語を語る事はできないのだ。
儚く、壊れやすく、けれど終わらない幻を見たこのポケモンがいなくては。
自分の役を捨てて眠りたかったアカリちゃんなしで、ミカンさんの物語は語れない。
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