4: ◆kiHkJAZmtqg7[saga]
2017/11/23(木) 20:43:17.64 ID:rdG/2M1Y0
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劇場で定期的に行われる公演、次回のメンバーに私は選ばれていた。
五人くらいでそれぞれのソロ曲と、みんなで歌う曲を一曲ずつ披露して、その間をMCで繋ぐ比較的小さな公演だ。
ユニットとしての繋がりにとらわれない公演は、どちらかというと参加するメンバーの誰か一人に興味のある人、あるいは固定ファンになってくれている人がよく観に来てくれる。
だから、レッスンもトレーナーさんと一対一のものが中心になっていた。
プロデューサーさんに告白できなかった日から何日か過ぎた今日は、そんな個人レッスンの一回目だった。
もしかしたら、一人きりだったから私は泣いてしまったのかもしれない。
「いちばん、いいたいことが……じょうずに、いえ、ないの、どうして……♪」
優しいピアノに支えられながら紡いでいく旋律が、不意に私の胸をついた。
心の中を占めるいちばんの気持ちを言葉にできなくなってしまっている今の私に、その歌はぴたりと重なるみたいで。
歌い続けるほど、今までこんなに切実に感じたことがないってくらい歌詞が心に入ってきて、せつなげなメロディが、目元をじんと滲ませてきた。
「ひとりじゃきっとこんなっ、きもちも、しら、ないで……っ、うぅ……ぐす、ふぇ……」
「篠宮さん……? どうしたの、大丈夫? 篠宮さんっ?」
歌い続けることができなくて、嗚咽を漏らしてしまう。我慢することができなかった。
押さえつけられた感情がコントロールできないまま溢れ出てしまうみたいだった。きっと、こんな気持ちで歌う歌じゃないってわかっているはずなのに。
急に泣き出してしまったから、トレーナーさんだって困らせてしまっている。どうにか気持ちを落ち着けようとしても、全然うまくいかなかった。
結局、その日は何度歌おうとしても、途中で抑えきれなくなって泣いてしまった。私だけの曲を、私は歌えなくなっていた。
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