88:名無しNIPPER[saga]
2018/03/01(木) 19:46:03.86 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
暗がりに光るホログラムの不細工な人型。無数に乱立するそのひとつひとつが、世界を裏から牛耳るアマルガムの幹部たちであるなどと誰が思おう。
邪気のない笑みを浮かべながら、アマルガムの幹部であるミスタ・Cuは彼らの遣り取りを耳にしていた。
今の話題は、先の<トゥアハー・デ・ダナン>が行ったソ連での作戦行動についてだ。
本来なら、紛争の調整を行うこの会議に上がる筈もない話題である。
だが香港での一件以降、あの部隊はアマルガムの中でも注目度を上げていた。誰かが何の気なしに挙げた話題が、こうまで膨らむほどに。
『――ことの顛末は以上です。ミスリルのあの部隊も、今回は痛手を蒙ったようで』
『ふん! たかが武器商人相手にあの様とはな!』
『だが、それならミスタ・Kの失態は?』
『油断していたんだろう! まったく、あれは酷い損失だった――』
話が愚痴・不満大会の方に流れそうなのを見越して、Cuはミュートにしていたマイクのスイッチをオンにする。
「まぁまぁ! あの時は結果として、両中国の軍備事情に介入できたのですから」
『ミスタ・Cuか――通信状態が悪いようだが? 雑音が入るぞ』
「申し訳ありません。少し背後が立て込んでおりまして……」
『ふん。まあいい。ところで今日は聞きに徹してたようだが、何か提案でもあるのかね?』
水を向けてきたのはミスタ・Guだった。アマルガムの中でも、かなりの発言権がある人物だ。派閥造りに腐心しているとも聞く。
自分にも何度か『声』が掛かったことがあった。今日を境に、もう誘いはなくなるだろうが。
「ええ。提案ではないのですが――本日をもちまして、私は<アマルガム>から去ろうと思うので、最後に挨拶を、と」
どよめきが起こる。アマルガムに参加しているのは、戦争の調整で大きな利益を得ている者がほとんどだ。
脱退させられるのならともかく、自ら辞める者などあろう筈がない。
『どういうことだ? 君はメンバーの中でもかなり精力的に動いていた方だったと思っていたがね』
「個人的な事情ですよ。立つ鳥跡を濁さず。ここで話しておけば、後のことは調停役のミスタ・Hgが対応してくれると思いまして。
別にお別れパーティをして欲しいわけではありませんので!」
僅かな含み笑いのようなものが何人から漏れるが、引きとめようとする者はいない。
そして、ミスタ・Hgの対応も素早かった。ホログラムが一瞬で全て消え失せる。会議場から強制退室(キック・アウト)させられたのだ。
「ふぅ、こっちは終わり。いい商売相手が何人かいたような気もするんですけどね――うん?」
目の前で、暗転したはずの画面が切り替わり、先ほどまでとは別のチャットモードが起動する。
接続を意味するホログラムがひとつだけ表示されていた。その名前は――
「――ミスタ・Ag?」
『やぁ、ミスタ・Cu。いや、元、を付けた方がいいかな?』
「何でも構いませんが、わざわざ何の御用ですか?」
『手段ではなく、目的を聞く、か――その君の聡明さは、前々から気にかけていたんだよ。辞めてしまうのは残念だ。
コダールの部品調達にも、かなり貢献してくれただろう』
「まさか労いの言葉を貰えるとは思っていませんでしたが、その為にわざわざハッキング染みた行為を?」
『いや、理由が知りたかったんだ。君の背後が騒がしい理由と関係があるのかい? それなら――』
「それは関係ないですよ。ただ、妹から"そろそろ馬鹿げた八百長グループから抜けておけ"と言われまして。
あいつがわざわざこんな忠刻染みたことを僕にすることは滅多にない。だから、その"滅多"は信用することにしているんです」
『そうか、妹君も賢いようだ――僕の愚妹と交換してほしいくらいだよ』
「フフーフ、それはやめた方がいいでしょう。あいつはきっと貴方と相性が悪い。
それで、話は終わりですか? そろそろここも引き払おうと考えていまして」
『いや、最後にひとつ、質問をさせてくれ――キャスパー・ヘクマティアル』
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