85:名無しNIPPER[saga]
2018/03/01(木) 19:44:19.24 ID:NjFxGLD10
視界を閉ざしていても、<デ・ダナン>の中で彼女が思い描けない場所はない。
瞼を隔てた目線の先には、発令所の動きをチェックするカメラがある筈だった。
これはトラブルなどが起こった際、その事実関係を記録する為の物である。
8月のガウルンによる占拠騒動の後も、このカメラの映像を本部に提出し、後にセキュリティ対策を強化する際に反映された。
そのカメラも、もはや信用できない。そして、信用できないと思っていることを悟られてはならない。
カメラの向こうにいるかもしれない、ココ・ヘクマティアルに。
(――ラビット・フットがどれほど優れたハッカーであっても、<ダーナ>のプロテクトを突破できるとは思えない)
先ほどマデューカスに対し述べた考えは、意図的に誤解を招くような言い方をしてある。
必要な処置だった。もしも自分の考えていることが正解で、その解に辿り着いていることをヘクマティアルに知られれば――
(最悪、彼女は<ダナン>を沈めるでしょうね)
そう、追い詰められたものは形振り構っていられなくなる。
そしてあの武器商人は、おそらくそれができるほどの力を手にしているのだ。すでに艦内の映像・音声を把握していないとも限らない。
自分が組み上げた<ダーナ>もその初歩に踏み込んではいるが、おそらくヘクマティアルが擁しているのはもっと高度で、言ってしまえばSF染みた性能の物だろう。
(――量子コンピューター。M9の電子防壁を掻い潜った以上、既に実現していると見るべきでしょう)
試合に勝って、勝負に負けた。そんなとこだろう。ヘクマティアルは、いつでもM9全機のリアクターを停止させられたはずだ。
そして、それをしなかったのは――
(――本命の目的は、別にあった。わたし達を引き抜こうとしたのはあくまでついでね。いささか性急すぎる要求だとは思ったけれど。
ヘクマティアルが言う"世界を平和にする為の手管"は、量子コンピューターの存在がその鍵となる筈。
であれば、今回の接触の目的は、わたし達がそれに気付けるか、あるいは止められるかという確認でしょう)
果たして、ヘクマティアルは<ミスリル>をどう評価したのか。
取るに足らない存在だと思ったのか、果てまたアマルガムと争っている内は対応する余裕がないと判断したのか。
(何にしろ、ヘクマティアル――本当に、貴女を勝たせるわけにはいかなくなった。
貴女が取るであろう手段は、おそらく最低でも数十万単位での犠牲が出る)
誰かに相談することは出来ない。あからさまに動くこともできない。
それでも、テレサ・テスタロッサはココ・ヘクマティアルと対決する。
(貴女は、どこかあの人に似ている――この世界に見切りをつけてしまった怪物、わたしの兄に。
だからこそ、貴女のこと"も"わたしが止めて見せます)
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