82:名無しNIPPER[saga]
2018/03/01(木) 19:42:32.20 ID:NjFxGLD10
◇◇◇
『――全チーム撤退。機体を起こして回収ポイントへ。βは到着次第、中破機体の補助に当たれ』
「ウルズ1、了解――終わったか」
ヘッドギアに響く<ダナン>からの通信に、クルーゾーは人心地ついたように息を吐いた。
狙撃、アーバレストの復帰、敵の取りつき、交渉――目まぐるしく移り変わる状況が、ようやく落ち着いたのだ。
「――そうですか。ならば、拘束を解いてもらっても?」
だから、そのタイミングで耳元に届けられた肉声に、クルーゾーは目を見開いた。
改めて認識した視界の中に、自分が拘束していたバルメの隻眼が写っている。意識を取り戻した彼女が、顔を半分だけこちらに向けていた。
「っ……これは失礼した」
ばっ、と首元に回していた腕を離すと、バルメはよろけもせずに雪原を歩いて見せる。
(水月に、これ以上ないほどの完璧な一撃をいれたというのに――もう回復したというのか)
尋常でないタフネスだ。さらに驚くべきことに、バルメはしばらく足を進めると、雪の中に腕を突っ込んだ。
クルーゾーが訝しげな視線を向ける中で、バルメはこともなげに雪中に埋まっていたナイフを取り出して見せる。
「――あの状況で、投擲したナイフの落ちる位置を完璧にイメージしていたと?」
「いいえ、そんな小難しい話ではありません――これはココがくれたものなので、たとえ地球の裏側にあっても分かります」
真顔で紡がれたそんな台詞に、クルーゾーは咄嗟に反応することもできなかったが。
バルメは拾ったナイフを鞘に納めると、クルーゾーに向き直った。拳を突き付ける。
「ミスタ・ファルケ。今回は私の負けですが、私がココの部下である限り、負け犬で有り続けることはできない
――次に戦場で出会った時には、必ずこの雪辱を返します」
「……武術を修めた者として、貴女のような練達者との切磋琢磨は何にも代えがたい経験だ
――次に見える時は、小細工なしで五分の勝負を」
包礼拳で返したクルーゾーの言葉に、バルメは満足したように頷くと踵を返した。軽やかに武器商人の元へ走り出す。
去りゆく背中に危ういところは一欠けらも見えない。対して、こちらは全身の裂傷がじくじくと熱を持っている。
ナイフ使いの背中が完全に見えなくなった辺りで、クルーゾーは誰にも聞こえないような小声でぼそりと呟いた。
「二度とごめんだ……」
◇◇◇
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