相良宗介「HCLI?」
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68:名無しNIPPER[saga]
2017/12/18(月) 20:27:40.89 ID:AHCstnE90
◇◇◇

『降伏ぅ!? お嬢、降伏ってどういう――』

「ごめん、ルツ。それにみんなも。だけど、ここらが落としどころさ」

 膝立ち姿勢のアーバレストを見上げるようにしながら、ココ・ヘクマティアルはやれやれと頭を振って見せた。

「これ以上は、どうやったって犠牲が出る。お互いに、ね。喉元にナイフを突きつけあってる状態――だから、交渉が可能というわけだ」

『まあ、妥当なところではあるわな』

『レームのおっさんまで……ああ、クソっ。わーったよ。アネゴが起きたらもっと分が悪くなるしな』

「……さて、こちらはそういうことで纏まったわけだが……そちらの返答は?」

 ココがそう尋ねると同時、ヘッドセットに酷いノイズが奔った。思わず顔をしかめる。

 どうやら敵ASがその電子戦機能を使い、無線のチャンネルに介入しているらしい。

 やがてノイズが引くと、入れ替わりに若い女性の声が聞こえてきた。

『――交渉、といいましたか。要求は何でしょう?』

「初対面だというのに挨拶もなしかね、謎の御婦人。君がこの荒くれ者どもをまとめる指揮官殿で?」

『ええ、その通りです。お分かりでしょうが、名前は名乗れません。謎の傭兵部隊ですから。
 "謎の御婦人"が呼びにくければ"アンスズ"とでも』

「なるほど、ウルズにアンスズ……ルーンか。洒落たコードサインだね。教養のある人物とお見受けする。
 では、こちらの要求を伝えようミス・アンスズ。我々をこの場から見逃すこと。迫っているであろう別働隊による追撃もなしだ」

『法外ですね』

 呆れたような声音のミス・アンスズ。

 当然と言えば当然か。ココはうっすらと笑みを浮かべた。彼らはまさに自分達を狩るために部隊を派遣したのだから。

 それを達成できないとなれば、様々な"不都合"が生じるであろうとは想像に難くない。ましてや相手がそれを要求するというのであれば!

「無論のこと、私は商売人だ。暴利を貪るだけではない。相応のものは支払おう」

『では、そちらの払う対価は?』

「今回売る予定だった商品だ。これをそちらに引き渡す――M9を運用しているような集団にとっては無価値なデータだろうが。
 だが、取引を止めることが目的だったのだろう?」

『うーん……』

 ココの提案に、アンスズはわざとらしく、迷うように語尾を上げる。

『やっぱり割にあいませんね。こちらはM9を3機、中破させられてしまっているわけですし。
 でも、まさか武器商人からお金を貰う訳にも行きませんから。
 だって、賄賂だと思われてしまうでしょう? やっぱりこの取引はなしということで……』

「まったく、商売上手なことだ。どちらが商人か分かったものではないな」

 呆れたように首を振るココ。だがその顔には明らかに歓喜からくる笑みが浮かんでいた。

(なるほど。トロホブスキー女史もこんな気持ちだったのかな)

 僅かに会話しただけでも分かる。
 ミス・アンスズ。この下手をすれば自分より年下であるかもしれない女性は、深い教養と知性、そして度胸を兼ね備えた傑物だ。

 楽しい! この会話が、そしてのその結末を予想するのが! その予想が覆されるかもしれないという事実が!



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