66:名無しNIPPER[saga]
2017/12/18(月) 20:25:20.07 ID:AHCstnE90
「いいや、してないね!」
女性の声が割り込んでくる。モニターを見れば、跪くアーバレストの目前にココ・ヘクマティアルが仁王立ちしていた。
光学カメラの位置を熟知しているのだろう。ディスプレイ越しに、こちらを真正面から見据えてくる。
「凄いな、そのAIは! M9に音声認識AIの搭載が検討されているというのは聞いていたけど。
嘘がつけるなんて、是非とも開発者と直接話したいものだね」
≪お褒め頂き光栄です、ミス・ヘクマティアル。しかし、残念ながら私は嘘などついておりませんが?≫
「それこそ嘘さ――そのセガール氏とやらに価値がないなんて。君に乗っている彼に価値がないなんて!」
犯人を明かす探偵のように、ココは滔々と台詞を張り上げた。
「ヨナが山岳部隊に居た頃、傭兵であるセガール氏と出会っている――少なくとも数年前まで、彼は普通の傭兵だったということだ。
ヨナの経歴については知っている。彼の基地が君たち"正義の傭兵部隊"に目を付けられるようなところではないことも。
そんな彼が、果たしてこんな機体を任されるものかな?」
ココは値踏みするように、アーバレストへこれ見よがしに視線を注いでみせる。
「M9をベースにしているが、バージョンチェンジと呼べる範疇を越えている。そっちに埋まってるD系列とは違ってね。
何らかの実験機だろう。それにどうして、おそらく部隊に所属して精々一年かそこらの、しかも少年兵が乗っているのか」
≪軍曹殿は腕の良い操縦兵です≫
「君たちの組織が年功序列を排し、徹底的な実力主義をしいているとしよう――だが、それでもやはり納得はできないな。
指揮官はD系列だったようだし、動きもそちらの方が良かった」
単純にAS操縦兵としての腕前を比較した場合、確かに宗介はクルーゾーに一歩譲るだろう。それは以前の謀で明らかになっている。
だがそれを、一目で看破したこの武器商人の目利きは異常だ。
「そもそも、何故その機体は雪崩に飲み込まれて無事だった? 雪に埋まった状態から、どうやって瞬時に姿勢回復を?」
「それは――」
「それを可能にする装備を積んだ実験機だとしよう。ではなぜ、それほどまでに強力な装備を他のM9に搭載しないのか?
整備性に問題がある? ペイロードを食う? 生産が難しい? そうだな、何らかの欠陥はあるのだろう。
だが、そんな欠陥だらけの装備を搭載した機体に、どうして組織に所属して日の浅いであろう少年兵を乗せる?」
ココ・ヘクマティアルの読みは正確だ。宗介がアーバレストに乗るようになったのは偶然に過ぎない。
本来はベテランのクルーゾーの機体にもラムダ・ドライバが搭載される筈だった。
その前に開発者が自殺したせいでそうはならなかったが、もしも宗介がアーバレストに乗らなければ、この機体の操縦者はクルーゾーになっていた可能性が高い。
「ひとつだけ分かるのは、おそらくその少年兵が乗っているのには何か理由があるということ。彼が操縦者でなければならない。そんな理由があるということ。
つまり――彼に価値がないというのは嘘だろう」
≪しかし、彼が死んでも私が動けるというのもまた真実です≫
「ならば試してみるかい? 君たちは武器商人とその一団をこの世界から排除できる。
代わりにその機体の操縦者は失われる。それが等価交換だと思うならね―― ヨナ、躊躇するな。敵が動いたら手榴弾を投げ込め」
「了解、ココ」
命令を受けたジョナサンの目が、さらなる冷たさを帯びる。
彼は、やる。脅しでも何でもない。少年兵の怖さは、自身の命を使い捨てにしてくることだ。ジョナサン・マルは命惜しさに寝返ったりはしない。
場が膠着する。
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