65:名無しNIPPER[saga]
2017/12/18(月) 20:23:02.20 ID:AHCstnE90
◇◇◇
宗介は数年前の夜と同じように、ジョナサン・マルと一対一で向き合っていた。ただし、互いに所属を変え、多少は成長している。
変わらないのは、互いに武器を手にして、そして敵対しているということだ。
ジョナサンの手にはピンを抜いた手榴弾。手を離せば、操縦席に転がり込んだ其れは盛大に爆発するだろう。
操縦服には対爆性能もあるとはいえ、密閉空間での爆発力はおそらくそれを上回る。
ASの上半身を動かして、振り落としを試みるか? ――否。ジョナサンを振り落すことはできるかもしれないが、奴ならば落ちる前に手榴弾を投げ込んでくるだろう。
マスタースーツはその性質上、腕を一定位置に固定する必要がある。
足元に落ちた手榴弾を拾って投げ返すことはできない――とまでは言わないが、困難であることは確かだ。
「セガール……こんなところで会うなんて思わなかった」
「こちらも同じだ、ジョナサン。お前が奴の護衛をしていることは知っていたが、直接顔を合わせることはないと思っていた」
会話をしていても、互いに視線の鋭さは抜けない――それは数々の戦場を渡り歩いてきた、彼らの兵士としての資質だった。
「降伏してくれないか? 僕はこれを投げ込むだけで勝てる」
「お前を叩き落として、相討ちくらいにはできるぞ」
「じゃあ、訂正しよう――これを投げ込めば、僕たちは勝てる。僕が動けなくなっても、下に居る君の仲間を制圧することは簡単だ」
「……」
宗介は押し黙った。ジョナサンの目算は正しい。
あと5分ほどで到着する予定のチームβのことは知らないだろうが、どの道、SRTのほぼ半数が失われるということになれば作戦は大失敗といって良かった。
(これは……)
≪いいえ、そちらの負けです≫
声が響く。機械的な男性の声――アーバレストに搭載された戦術支援AI、アル。
他のM9に搭載されているAIとは違い、常に自由会話モードに設定されており、こいつは自由に喋ることが出来た。宗介にとっては、頭の痛いことに。
突如響いた声に、ジョナサンが目を丸くする。
「セガール、このASは喋るのか?」
≪私はこの機体の戦術支援AIです。ミスター・ジョナサン。それより、手榴弾を捨てて降伏することをお勧めします≫
「……何だって?」
≪こちらの勝ちは揺るぎません。私のAIとしてのコアユニットは、操縦席に手榴弾を投げ込まれた程度ではびくともしませんので。
歩兵程度なら私単独でも撃破可能です。軍曹殿から、事前に御命令をいただければ≫
「セガールは死ぬぞ、いいのか?」
≪彼に人質としての価値はありません。爆破するなり銃で撃つなりご自由に。ただし、葬儀はイスラーム式でお願いします≫
こいつは……
先ほど自分が口にしたクルツに対しての台詞を揶揄するかのようなこのAIに、宗介は頭を抱えたくなった。
だが、そうもいかない。苛つきをどうにかなだめすかして、宗介は鷹揚に頷いて見せた。
「ああ、許可する。俺が死亡した場合、自由に武装を行使して敵対勢力を撃滅しろ」
≪了解(ラージャ)≫
「……さあ、どうするジョナサン。形成は逆転したぞ?」
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