63:名無しNIPPER[saga]
2017/12/18(月) 20:21:17.34 ID:AHCstnE90
◇◇◇
幸運は二つあった。
ひとつは<アーバレスト>の体勢だ。
静的な安定性を得るための、膝立ちという姿勢。ASを保管する際の降着姿勢にも似たそれのお陰で、
アーバレスト頭頂部までの高さが通常時の約半分――4mほどしかなかったこと。
周囲の積雪を鑑みれば、実際はもっと低かっただろう。
そして二つめに、相良宗介が精神的に疲労状態であったこと。
ラムダ・ドライバの制御で神経をすり減らしていた為、アルの警告に反応するのが遅れてしまった。
幸運は、その二つだった――ヨナが機体表面をよじ登り、コックピットの強制解放レバーに手を届かせることが出来た幸運は。
宗介が昔、クルツやマオと初めて出会った時に行った戦法だ。
パイロット救助の為、どのASにも外部からハッチを強制解放するための仕組みがある。
だから機体に取りつくことさえできれば――そしてそれが『戦術』として考慮するには馬鹿馬鹿しくなるほどの難易度ではあるのだが――歩兵でもASを倒すことができるようになる。
"幸運"は前述の二つ。だが"理由"ならば他にもある。
メリッサが感じた、敵の攻性の弱まり方。それは単純に、ヨナが戦列を離れたのが原因だった。
倒されたバルメの救援に赴こうとした行動。それは結果として、ラムダ・ドライバ発動時に、アーバレストが見える位置にヨナが立っていることに繋がった。
ラムダ・ドライバで吹き上げられた雪柱をカモフラージュに、ヨナは機体に飛びつけるほどに接近を果たしたのだ。
加えてヨナがこういったシチュエーションを想定して、ASに登る練習をしていたこと。
同じく各ASの強制解放装置が設置されている場所について、ココからレクチャーされていたこと。
<アーバレスト>はワン・オフの機体だが、大まかな構造自体はM9をベースにしたものだ。
そしてココ・ヘクマティアルは、M9の情報を事前に入手できる立場にあった。
そうした幸運と理由の結果が、これだ。ココは白い巨人に果敢に飛び掛かって行った部隊員の姿を見上げていた。
ヨナがASに関する知識を学ぼうとしているのは知っていた。彼は武器を憎んでいる。だから、必要ならその弱点を知ろうとするのは当然のことだろう。
日課のAS登りも同じ理由だ。
だが、それが実戦で発揮されることなどないと思っていた。ASを歩兵が倒すなど夢物語だ。RPGで戦闘機を落とそうとするのと変わらない。
それを、彼は……
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