62:名無しNIPPER[saga]
2017/12/18(月) 20:19:00.81 ID:AHCstnE90
◇◇◇
その傭兵と山岳兵が出会ったのは数年前の話だ。大したことを話したわけでも、感動するような経験を共有したわけでもない。
それでも、印象に残っている会話が無いわけではなかった。
「……セガールは、何で傭兵をやってるんだ?」
「……」
暗闇の中で、宗介――当時ソウスキー・セガールと呼ばれていた傭兵は、唐突な質問を繰り出してきた隣の山岳兵に虚ろな視線を向けた。
ジョナサン・マル。そう名乗った、褐色の肌の少年兵。
敵同士。ただし、それは30分ほど前までの話。崖から滑落した彼らは、互いに協力することでしか生き延びることはできなかった。
腕を撃ち抜かれた宗介の止血をジョナサンが行い、打撲で歩けないジョナサンを宗介が補助して光無き夜の山中を進む。
その途中で、ジョナサンが発したその質問。
宗介は口を開いた。親しみや愛想からではない。痛みと出血で意識が朦朧としている。意識を手放さない為に、会話という手綱は必要だった。
「……それしか知らんからだ」
「僕もだ。じゃあ、他の道があったらそっちに進める?」
「……想像がつかんな」
「それも、同じだ」
暗闇の中で、僅かに白髪の山岳兵が笑った――ような気がする。気のせいかもしれなかった。
「僕は、武器が嫌いだ。故郷の村を焼いた武器が。けれど、こうやって武器に頼る生き方しか知らない」
「少年兵など、皆同じようなものだ」
宗介は呟く。その事実に対する嫌悪も、諦めもない。ただ事実を指摘するように淡々とした口調。
ソ連で暗殺者として育てられ、その後、アフガンゲリラとして長年戦った。その波乱万丈に過ぎる人生の主は、だが己の境遇を憐れむこともない。
「俺達の食い扶持がなくなることなどない。おそらく、死ぬまで武器を手放すことはないだろう。世間の仕組みとはそういうものだ」
「そうだね、きっと。そうだ」
けど、とジョナサンは続けた。
「それでも、僕は世界が好きなんだ。きっといつか、僕らが武器を手にしなくていい時がくる――そう思うよ」
「……そうなればいいな」
そうなるだろう、とは言わなかった。
だが、そんなことはありえない、とも言わなかったのだ。
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