相良宗介「HCLI?」
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6:名無しNIPPER[saga]
2017/11/21(火) 20:00:06.70 ID:tuTmdYX90
◇◇◇

「――概要は以上よ。今回は積雪地での作戦になるから、各自、モーション・マネージャの確認をしておくように……ってあたりで、どんなもんでござんしょ?」

「上出来だ、少尉。この調子で頼む」

 作戦概要を説明し終えたマオが、監督役であるクルーゾーに向き直る。

 SRTの指揮官であるクルーゾーではなくマオがブリーフィングの進行を行っていたのは、昇進したばかりのマオに士官としての経験を積ませる為だった。

 控えていたクルーゾーが前に出る。彼女は十分に役目を果たした。もう自分がやるべきことはあまりないが、それでも自分だけにしかできないことがある。

「先ほどの説明にもあったが、連中は過去に3度、"火消し"の標的になっている。
 任務にあたったのは標的の行動範囲の都合から、インド洋戦隊が2回、地中海戦隊が1回だ」

 そして、とクルーゾーは自分の胸を指さした。 

「察しの良い者は気づいたかもしれんが、ここにいるひとりの元地中海戦隊員は、連中と直接対面したことがある」

「クルーゾー中尉が?」

「ああ。二年ほど前のレバノンになるか。連中がイスラム系のテロリストと取引をしている現場にM6で乗り込み、これを制圧。作戦は何事もなくスムーズに完了した」

「楽勝ってことですか?」

「いや、むしろ脅威を感じたな。取引相手のテロリスト共は応戦してきたが、ヘクマティアル側は即座に各自の安全を確保し、制圧が終わった後に降伏を申し込んできた。
 連中の誰一人、一発たりとも撃たず、負ったのも精々がかすり傷程度。指揮系統が徹底していて、練度も高いという訳だ」

 だが、最も印象に残っているのは私兵たちの動きではない。

 クルーゾーは当時の状況を思い出す。テロリスト達はRPGや通用する筈もない軽機関銃でM6を攻撃し、こちらも内臓のテイザーとチェーンガンで応戦した。
 ASの振るう最大火力には程遠いが、それでも歩兵にとってそこは地獄の鉄火場であったはずだ。

 その中で、ココ・ヘクマティアルは笑っていたのだ。

 20そこそこの娘が。怯えることもなく部下に指示を出し、竦むこともなく戦場を歩いていた。いま思い出しても、どこかうすら寒いものを覚える。

「繰り返すが。これまでに連中は三度火消の対象になっている」

 クルーゾーが指を三本たて、その内の一本だけを折り曲げて見せる。

「戦績は二勝一敗。最初は連中の商品をミサイルで吹っ飛ばすだけで済んだ。二度目は人里が近かったためにASによる強襲を行う必要があった。
 そして三度目に至って、連中は東側の大国が軍事演習をやっている傍で取引を行い、それを成功させている」

 ミスリルの作戦部は主に西側の兵器を使用している。
 これはそもそも組織を立ち上げた人物がイギリス人であることなどが原因だが、それ故に連中が三度目に取った手法は有効極まりなかった。

 何しろ、下手に襲撃を行えばこの長く続く冷戦状態を過熱させかねなかった。第三次世界大戦を防ぐことを是としているミスリルが、その引き金を引いてしまうなど笑い話にもならない。

 これまでにミスリルの標的となった武器商人は何人かいたが、彼らは一度商売をおじゃんにされればもうテロリスト相手の商売はしなくなるか、もしくは商売そのものができなくなった。
 ヘクマティアルはほぼ唯一と言っていい例外だ。

「敵はタフで、頭も切れる。3度目の手段も言うだけなら簡単だが、実行に移すのが難しい手段であることは言うまでもない」

 テロリストというのは、つまりその国の現体制に不満があるからこそテロリストなのだ。
 その彼らと軍事演習の傍で取引を成立させたという事実が、ココ・ヘクマティアルのディーラーとしての腕前を証明している。

「既に我々の行動理念や装備などは見抜かれているようだ。戦績を2勝2敗(タイ)にすることがあってはならない。各員、最大の奮起を期待する。さて、最後に質問は?」

 スペック伍長が手を挙げた。わざとらしい恭しさを滲ませた口調で訊ねてくる。

「中尉殿。自分はHCLIの株をもっているのでありますが、この一件で株価が暴落したら本部は保証してくれるのでしょうか?」

「来週までに全部売っておけ――他にはあるか?」


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