55:名無しNIPPER[saga]
2017/11/26(日) 02:48:16.84 ID:9ajXHJzP0
◇◇◇
「っ、はぁ、はぁ……」
<アーバレスト>の操縦席で、相良宗介は額に汗を浮かべながら息を切らせていた。
≪お見事です、軍曹殿。改めて雪の状態を観測しましたが、雪崩れの確率は0%。見事にラムダ・ドライバを制御しきりました≫
「少し黙っていろ……」
アルの声に、力なく宗介が応える。
間に合ったのはぎりぎりだった。
宗介の疲労困憊振りは、<ラムダ・ドライバ>の出力と、効果範囲をミリ単位で制御する為、精神力を極限まで絞りつくした結果である。
話はαチームがASから降車するところまで遡った。
「ウルズ7よりウルズ1へ。現在、こちらは脱出不能だ」
降車を促すクルーゾーの通信に、宗介は待ったをかけた。クルーゾーが疑問の声を上げる。
『トラブルか? データでは機体のどこにも損傷がないようだが……』
≪軍曹殿は咄嗟にラムダ・ドライバによる力場を展開しました。雪崩による損傷はほぼありません≫
<ラムダ・ドライバ>――ARX-7に搭載された、意志の力を具現化する斥力場発生装置。
スペック上では核兵器すら防ぐといわれるその装置は、雪崩から機体を守りきった――のだが。
≪ですが機体が仰向けに転倒した為、背部放熱索の展開が出来ず、結果として機体温度が上昇。
周囲の雪が解けた後、再凍結。本機体周囲に厚い氷の層が形成されてしまいました。ハッチの解放は難しいでしょう。
マッスル・パッケージの出力を計算すると、フレーム破損を覚悟し、最大出力でようやく動き出せる、というところです≫
『それこそ<ラムダ・ドライバ>で吹き飛ばせばいいじゃねーか』
クルツの言葉に、宗介は頭を振った。
「アル曰く、それをやると再び雪崩が起きるそうだ。先ほどのものとは比べ物にならい規模でな」
≪肯定。これまでに軍曹殿が発動させたラムダ・ドライバの平均出力から見て、最悪、至近距離で工作用榴弾が炸裂するのと同等のパワーが発揮されると思われます。
その場合、敵諸共M9は押し流され、完全に大破。乗員の生存は保障できません≫
『それほどまでのものか?』
≪一度雪崩が発生した為、ここは一種の雪溜まりになっています。現在は安定していますが、外部からの刺激による全層雪崩が起きた時の規模は想定しきれません。
先ほど大佐殿が集積したデータをお借りしましたが、これまでに確認された最大規模の雪崩はその高さが数キロにも及ぶものがあります。
ラムダ・ドライバを搭載する私はともかく、通常のM9は四肢が千切れるだけで済めば幸運かと≫
『んじゃ、戦力としてソースケは当てに出来ないってこと?』
≪いいえ、メリッサ・マオ少尉殿。むしろ、ここからの回復は軍曹殿に掛かっているといっても過言ではありません≫
アル曰く、ラムダ・ドライバの範囲と出力を調整することによって、周囲の影響を最小限に抑えたうえで<アーバレスト>を雪上に戻すことが可能だという。
敵の野戦砲も、用意しているかもしれない対戦車ロケットも、<アーバレスト>なら問題にならない。
まさか武器商人相手に、<ラムダ・ドライバ>搭載型ASの性能が必要になるとは思わなかったが。
そして今、ようやくその性能が発揮されたという訳だ。
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