52:名無しNIPPER[saga]
2017/11/26(日) 02:45:50.74 ID:9ajXHJzP0
◇◇◇
『……ルツ、狙撃手は抑えたぞ。行け!』
クルツの通信機のマイクが拾った敵の声が、クルーゾーのヘッドセットに届いた。
おそらく、状況を知らせる為にクルツが咄嗟にマイク感度を上げたのだろう。頭の後ろで手を組む動作に紛れでもしたのだろうか。
だが、不味い。これで敵の狙撃手がフリーになった。
クルツが敵狙撃手のマークを外せばこちらの勝ちはほぼ確定だった――狙撃の脅威性は高い。こちらは高所を取っていたのだからなおさらだ。
だがそれは同時に、敵の狙撃手が自由に動けるのならこちらの負けがほぼ確定するということを意味する。
クルツは狙撃手に行動を封じられていたのではない。むしろ逆。敵狙撃手二人を封じていてくれたのだ。彼がいなければ、とっくの昔にこちらは全滅していた。
そして、その仮定が現実のものになろうとしている。
咄嗟にクルーゾーは地面に転がしていたバルメの身体を抱き上げた。
武器を突き付け、人質兼盾にしようとして――だが、手元にひとつも武器がないことに気づく。
ライフルは弾切れ。拳銃は蹴り飛ばされた。敵も同じだ。ナイフは遠くに投擲され、雪原のどこかに埋まっている。
(いや――まさか、これを見越してのことか!?)
最後にナイフを投げつけてきたバルメの行動。
あの一投は苦し紛れの抵抗ではなく、武器を利用されるのを防ぐ為に行ったものか?
事実は分からない。だが結果として、見た目に分かりやすい武器がない以上、敵に人質を取っているというプレッシャーを掛けづらくなった。
やろうと思えば首をへし折ることも可能だったが、それをやれば次の瞬間には自分も撃ち抜かれて死んでいる。
あくまで、人質というのは敵への牽制に使うもの――いや。
そこでクルーゾーは、自分の行動がどうしようもないほどの失策であることに気づいた。
相手は、まさに"この状況"を解決するために厳しい訓練を積んできたスナイパーなのだ。
警察の対テロ部隊。その狙撃班。人質を取った犯人の指先をぴくりとも動かさせず、その脳幹を一撃で吹き飛ばすスペシャリスト達。
雪上車の傍で何かが光る。クルーゾーの目に映ったそれは、スコープの反射光か、果てまたマズルフラッシュか。
なんにせよ、放たれた弾丸は正確にクルーゾーの頭部を捉え――
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