51:名無しNIPPER[saga]
2017/11/26(日) 02:44:49.15 ID:9ajXHJzP0
◇◇◇
気を抜けば乱れそうになる呼吸を何とか宥めすかしながら、レームは油断なく眼下に伏せる男を観察していた。
金髪の、20そこそこの男。正規の兵士としては新米といっても差し支えない筈の年齢だろうに、狙撃手としての技量は自分に勝るとも劣らない。
純粋なセンスに至っては比べ物にならないだろう。だが、兵士を構成する要素はそれ以外にもある。
こうして背後を取れたのも、その要素――実戦経験の差によるものだった。
実戦経験の差は、変化する状況に対応する速度の差だ。目の前の男もこの年齢にしては相当の場数を踏んでいるのだろうが、さすがに自分ほどではない。
あの閃光と轟音の中で、それを発生させたクルーゾーを別とすれば、もっとも早く事態を把握していたのはレームだった。
これは自分達の仕組んだものではない。ならば敵の策略のひとつ――ただ座していては敗北する。
だからレームは走ったのだ。狙撃銃を捨て、タクティカルベストを脱ぎ捨て、拳銃ひとつの身軽な恰好で。
賭けの部分は大きかった。これはレームの嫌いな"少年兵の戦い方"に近いものだ。
起伏の陰を走ってきたとはいえ、この狙撃手が自分と同じ程に立ち上がりが早ければ撃ち殺されていたかもしれない。
だが――全滅するよりはましだ。そしてこの役割をこなせるのは、狙撃手に一番近い位置取りをしていた自分しかいなかった。
「くそっ、おっさんにケツを取られるなんて、屈辱の極みだぜ……」
目の前の男が苦々しげに呟く。指示通りにライフルから手を離して、頭の後ろで手を組みながら。
「そういうな。狙撃で勝てなかったから、こんな無茶をやる羽目になったんだ。こっちもプライドはズタズタだよ……ルツ、狙撃手は抑えたぞ。動け!」
106Res/207.53 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20