41:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 23:21:49.30 ID:290cDT/E0
◇◇◇
ソフィア・ベルマー――バルメは胸中で驚愕と称賛の感情を抱いていた。
無論、向ける相手は自分の主たるココ・ヘクマティアル――では、ない。目の前にいるアフリカ系の偉丈夫に、だ。
接近しきってしまえば、始末は簡単。そうたかを括っていた数分前の自分を恥じる。
拳銃を蹴り飛ばしたところまでは順調だった。だが、こちらが放ったナイフによる一撃を、敵はあろうことか素手でいなして見せたのだ。
蹴りを放った後の、無茶な姿勢からの一撃だったという要素はあるだろう。
だが、それを差し引いても自分のナイフを無手で捌くような手合いにはお目にかかったことがない。
バルメは認めた。目の前の男は一流の戦士だ。おそらく、自分以外では相手に出来ない。
踏み込む。握り込んだナイフを振る。敵は半歩下がりその一撃を躱すが、これは想定内。バルメは鋭くナイフの切っ先を翻し、連撃を見舞った。
一撃で仕留めるような戦い方はしない。それは大きな隙を生むことになる。ナイフ格闘の極意は切り刻むことだ。
浅くても何度でも斬り、痛みと出血で弱らせ、動きの鈍ったところを仕留める。地味だが、これは堅実な、相手に一切の抵抗を許さない戦法でもある。
刃は既に血で染まっていた。敵は上手く躱し、いなし続けているが、それでも素手と武器ありという格差は埋まらない。着々と負傷は増えつつある。
だが――仕留めきれない。敵の防御は堅牢だった。
こちらが少しでも深く刃を繰り出そうとすれば、円運動にも似た腕の動きでこちらの手首を捉え、ナイフの軌道を逸らし、反対に打ちこんで来ようとすらしてくる。
CQCとも違う。おそらく東洋のマーシャル・アーツの流れを汲む戦闘技術。敵はその達人だろう。
(それでも勝つのは自分です)
ふっ、短く息吹を吐くと、バルメはさらに一歩、強く踏み込んだ。
時間は掛けられない。仕事は山積みだ。この男を仕留め、戻ってもう一人の制圧に協力し、スナイパーを片付けなければならないのだから。
上方からの振りおろし――敵は半身になってその一撃を躱す。
首を狙った切り上げ――スウェーバックによる回避。
疎かになった下方に足払いを掛ける――敵はそれを見もせず、足を掲げてガード。
その隙に乗じて死角でナイフを持ち替え、フェイントを組み込んだ胸部への刺突――拳で刃の腹を叩いて致命傷を避けようとする男。
ガードされることを見越したバルメがナイフを捻り、男の突き出した掌に対し刃を立てた――男は素早い見切りで拳を引く。が、僅かに遅い。鮮血が飛び散り、雪に沁み込む。
瞬時に行われる無数の攻防の積み重ね。だが傷が増えるのは男だけであり、バルメは息すら切らしていない。
優位は揺るがない。あとはどれだけ戦闘の時間を短縮できるかという問題だ。
その戦闘の間隙に、初めて男が声をあげた。その猛禽の様な険しい視線の中に、一抹の敬意を含ませてバルメを見つめてくる。
「……見事なものだ。ソフィア・ベルマー元少佐だったか」
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