4:名無しNIPPER[saga]
2017/11/21(火) 19:59:09.39 ID:tuTmdYX90
◇◇◇
「はい! という訳で今回のお客さんはテロリスト"意識の高い秘密結社"さんです!」
洋上に浮かぶ巨大なコンテナ船の一室で、ココ・ヘクマティアルはいつもの様に薄い笑みを浮かべながらそう宣言した。
部屋の中には彼女の頼もしい私兵たちが――表向きは彼女がオーナーを務めるPMC社員ということになっているが――詰めている。6人ほど。
改めて面子を見渡して、ココはあれれ、と首をひねって見せた。
「そういえば、ヨナとウゴは?」
「ヨナ少年は多分、またAS登りをやってるんじゃないかね? で、ウゴはそれを呼びに行った」
火のついていない煙草を手の中でくるくると弄びながら、レームが返す。
火をつけていないのは嫌煙家のバルメに怒られるからで、それでもタバコを手にしているのはささやかな抗議のつもりだった。
それはさておき、"AS登り"とはヨナことジョナサン・マルがよく行っているレクリエーションのことだ。
文字通り、まるでアスレチック代わりにでもするように、商品であるアーム・スレイブをよじ登っていくのである。
船の格納庫に置いてあったASをヨナが見た時から始まった奇行であり、最近では目を見張るほど自在にASの表面を動き回っていた。
「はっはっは、ヨナ君も男の子、というわけですかね? ロボットはいくつになっても男心をくすぐりますから」
「あー、ちょっと分かるわ。俺も前の職場じゃ見る機会なかったし、ヨナ坊のいたとこにも配備されてなかったのかね?」
ワイリの意見にルツがうんうんと頷く。
ASは高価な兵器だ。それ自体の値段もそうだが、運用にもかなりコストがかかる。現代戦においてどこにでも潜める兵器ではあるが、どこにでもある兵器という訳ではないのだ。
「……さて、それはどうかな」
「ん? お嬢、なんか言ったか?」
「別に、何も。それよりヨナだよ! ヨーナー!」
「叫ばなくても……来たよ、ココ」
頭を抱えて絶叫したココに応じたのは、ドアを開けて入ってきたヨナだった。正確には、ウゴに襟首を掴まれて宙づりにされているヨナだ。
「遅いぞヨナ隊員! ブリーフィングがあるって言ったでしょ!」
「ごめん。でも、あの黒いASは初めて見たから……イタッ」
どすん、と、ぞんざいに椅子の上に放り出されて小さく悲鳴を上げるヨナに、ここまで運搬してきたウゴが肩をすくめて見せた。
「遅れてすみませんでしたお嬢……話の方を」
「ご苦労だった、ウゴ。さてさて、話は戻るけど、今回のお客はテロ屋さん。運ぶ先はソビエトの山奥になる」
「雪山ってこと? わざわざそんな場所に武器を売りに行くの?」
「というより、テロリスト相手の仕事、ですか? 前例がなかった訳じゃありませんけど……ココ、そういうの嫌いじゃありませんでしたっけ?」
ヨナとバルメが疑問符を浮かべる。およそ、ココが引き受けそうな仕事ではない。
「まあ、色々と事情があってねー。急な話だし、慣れない環境で大変だろうから、その分、みんなには特別ボーナスを出そう!」
おおー、と声が上がる。ただし、ひとり分だけ。
そのひとりであるところのヨナは、不思議そうな表情でぐるりと周囲の面々を見回した。全員が全員、嫌な予感を抱いているかのように冷や汗をかいている。
視線に気づいたのだろう。レームがいつものように軽薄な笑みを浮かべながら、煙草のフィルターを噛みつぶした。
「そうか、ヨナ君はこれが最初か。なら覚えとけ。相手がテロ屋でボーナス宣言。そんな仕事の時は、大抵"奴ら"が出てくるのさ」
「奴ら?」
「"正義の傭兵部隊"。我々は連中をそう呼んでいる」
胸を張って言い切るココをよそに、訝しげなヨナの耳元へマオがこそこそと小声でささやく。
「……そう呼んでるのは、ココさんくらいのものなんだけどね。私達は単に"連中"とか"奴ら"って呼んでるよ」
「というか、お嬢がそう言うってことはやっぱり連中が出張って来るのか……」
「こら、ルツ! その不満そうな顔は何です! ココのやることに何か不満でもあるんですか!?」
「そういうアネゴだって"うわっ"って顔してたくせに」
「なっ、ぐ。それは……」
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