33:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:25:56.89 ID:290cDT/E0
「……カリーニンさん、貴方はソ連出身でしたね。
ヘクマティアルが、どうやって野戦砲を撃つことを村の人達に了承させたのか、分かりますか?」
「ふむ……おそらくですが、アバランチコントロールを買って出たのではないかと」
「アバランチコントロール(雪崩れの制御)、ですか? 大砲を撃ちこんで、あまつさえ雪崩は起きちゃいましたけど……」
「そういう手法なのです。爆薬などで人為的に雪崩を起こし、大きな雪崩や、予想外の雪崩を防ぐというもので。
本来はスキー場などの観光地で行われるものです。
あのような寒村では人材も道具も用意できないでしょうから、ヘクマティアルが格安で提案すれば飛びついたでしょうな」
――彼らはまだ知る由もないが、カリーニンの予想は当たっていた。
ココが村長と交わした商談の正体。格安でのアバランチコントロールの定期契約と、そのデモンストレーションを行う許可を取りつけるもの。
正確にはそう見せかけて、M9を雪崩に巻き込むための布石だった。
「一般的な手法、なんですね?」
「野戦砲を使うのはいささか乱暴に過ぎますが」
肯定を返すカリーニンに、テッサは再びモニターに表示された地図を見つめた。
現状、現実的な手立てはキャステロたちチームβをクルーゾー率いるαの救援に向かわせること。
足りないのは時間だ。この積雪では、ASの機動力が生かせない。ならば――
テッサは情報士官に命じて、艦のAIである<ダーナ>を呼び出させた。超高性能AIである"彼女"は、高度な情報処理能力を持つ。
行動を命じてから2秒。<ダーナ>が掻き集めた必要な資料・論文をさらに30秒かけて斜め読みし、テッサはキャステロ中尉へ通信を繋げさせた。
「本部よりウルズ3へ。貴方とウルズ2のM9は、<ヴァーサイルU>を装備していましたね?」
『肯定です』
<ヴァーサイルU>は9連装の多目的ミサイルだ。武器商人相手には過剰な武装に見えるが、そもそもこれはヘクマティアルに撃つ為のものではない。
雪山でM9が行動不能になり、回収もできないと判断した際、機体を爆破して証拠隠滅を行う為に用いる筈の保険だった。
「敵にやられたことをやり返してやります。チームαを救助するための最短ルート上に、いくつかポイントを設けました」
キャステロたちが目にしているスクリーンに、周辺の地図と赤いライン、さらにそのライン上に表示される光点が追加される。
どうやら、起伏の少ないなだらかな斜面を選んで光点は配置されているらしいが……
『この光点は一体?』
「地形と気象観測衛星からの予測情報を元に算出した、"雪崩れの起きやすい地点"です。
ここに<ヴァーサイルU>を撃ちこんでください。全層雪崩を連鎖的に引き起こして、一時的に積雪量の少ない地形を作り出します」
『なっ……』
キャステロが絶句する。他の面々も同様だった。
当然の反応だ。テッサは胸中で自分自身に頷かせた。目の前で雪崩を起こせと言っているのだから、反発も出るだろう。
「確かに危険な手ですが、これならASの機動性をほぼ完全に発揮できます。かかる時間も20分程度に短縮できるでしょう。
雪崩れに巻き込まれないよう、立ち位置や信管の設定は計算してありますから――」
『いえ、危険だとかそういうことではなく……』
『テッサ、あんたそれ、いま考え付いたの? その、計算して?』
どことなく呆然としたメリッサの声に、テッサはこともなげに「そうですけど……?」と返す。
ああ、そうだ。SRTの面々は、揃って再認識させられた。彼女は最強の潜水艦を設計し、若干16歳でその艦長を務めている常識外れの天才なのだ、と。
その理知。その豪胆さ。まさしく彼女は荒くれ者たちを束ねる海の女王だ。忠誠を誓うに値するほどの。
『アイ・アイ・マム! チームβよりチームαへ。これより救援に向かう。それとウルズ8、ミサイルはお前が撃て』
『俺が?』
『ただ撃ちこむだけならともかく、爆発の影響を計算せんとならんからな。
爆発物の取り扱いなら、この中じゃお前が一番上手いだろう。あの爆弾魔に我々の力を見せてやれ』
『ウルズ8(スペック)が撃つのか? おいおい、俺達を雪崩に巻き込まないでくれよ』
『その時はお前に直接ミサイルを叩きこんでやるよ、ポンコツスナイパー』
クルツとスペックの軽口の応酬に、部隊の雰囲気に明るいものが混じりだす。
それは部隊の動きをスムーズにするための潤滑材、ユーモアの発露であり、明確な勝利の可能性を見出したことによる士気の高まりだった。
『決まりだな。ウルズ1より各位へ。我々チームαは、これより白兵戦に移行する。20分だ。20分だけ耐えろ。耐え抜けば我々の勝利だ』
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