27:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:11:36.57 ID:290cDT/E0
◇◇◇
アーム・スレイブという兵器に関して、一番の弱点となるのは装甲の薄さである。
これは人型という制約がある以上、宿命的に付き纏う欠点だ。
関節部は脆くならざるを得ないし、無理に装甲を積んでも他の兵器に対して優位を取れる機動力の低下を招いてしまう。
特にM9は欠点を克服するよりも、長所である機動性を限界まで延ばし"敵からの攻撃を回避すること"を前提にしたスペシャリスト用の機体だ。
マッスル・パッケージ自体に防弾性能を持たせたことにより、防御力を落とさずに軽量化させることに成功したが、
逆に言えばこと装甲だけに限るなら、第2世代のASと同程度しかないともいえる。
瞬間的な荷重ストレスへの耐性だけなら、M9を上回るような第2世代型さえも珍しくない。
その結果がこれだ。マスタースーツにしこたま打ち付けた身体の痛みを頭から締め出しながら、クルーゾーは迅速に状況へ対応する。それが彼の兵士としての資質だった。
光学カメラからの映像は真っ黒だ。壊れたのか、単に雪に埋もれているだけか。それは分からなかったが。
クルーゾーはヘッドギアの口元に仕込まれているインカムを意識して声を飛ばした。
「<ドラゴンフライ>、各機の損害をチェック」
音声認識により、彼の『ファルケ』に搭載された支援AIが起動。命令通りに、データリンクした他のM9と自身の損害状況を報告する。
モニターを確認して、クルーゾーは小さく歯噛みした。状況は最悪に近い。
カナディアンSAS出身のクルーゾーは雪崩の怖さを知っている。
雪崩に呑まれ、そして掘り出された死体の多くが"四肢を切り飛ばされている"という事実を。
雪崩れによる死因は窒息だけではない。岩や朽木といった混合物によって発生する剪断力は人の手足など軽く千切ってしまう。
またその衝撃力は積雪の状態によっては数トンから十数トンにまで及ぶこともあり、そもそも雪崩に飲まれた時点で内臓や脊髄が潰れて死ぬことも珍しくない。
無論、ASは人体ほどやわではなかった。だからこうして自分たちは死なずに済んでいる――機体の損傷と引き換えに。
(装甲に歪み、関節部の破損、マッスルパッケージに亀裂……機体は固まった雪に埋もれている。
ウェーバーの機体に関しては左腕部が完全にイカれているな。奴め、あれほどブリーフィングで雪崩への対処を仕込んでやったというのに……!)
歯噛みするクルーゾーの機体でさえ無傷ではない。ASが雪崩れに巻き込まれた時点で、それは望むべくもないことだ。
だからこそクルーゾーは常に雪の状態をセンサーで密に計っていたし、雪崩の兆候があれば部隊を撤退させるつもりだった。
結果はご覧の有様だ。データリンクへの介入もそうだが、まさか敵が榴弾砲を使って人工的に雪崩を引き起こすなど考えてもみなかった。
それは想像力の欠如などではない。当たり前だ。ここにはココ・ヘクマティアルがいる。
いま起きた雪崩に、彼女達も巻き込まれたはずだ。この規模では万に一つも助かる見込みはない。雪上車ごとペチャンコになってお終いだ。
だが――この言い知れぬ不安は何だ?
クルーゾーは再びAIに命じ、破損を免れていた偵察用のカメラ・プローブを展開した。
細いパイプのような見た目の高解像度カメラが蝸牛の目のように機体から延び、雪を押しのけて、地上の光景をモニターに映す――
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