26:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:10:44.54 ID:290cDT/E0
◇◇◇
メリッサやクルツの通信をよそに、SRTの中でもっとも早く動いていたのは相良宗介だった。
それは彼の直感に過ぎない。論理的な思考の下に導き出されたものではない。
だがそれはアフガンゲリラ出の傭兵という経歴を持つ彼を、今日に至るまで生き残らせてきた能力。
――自分達は、罠に掛けられた。そんな不利な戦況の匂いを嗅ぎ取る力だった。
「ウルズ7よりウルズ1へ。敵はこちらの想定を超えた。何をしてきてもおかしくない。即時の攻撃を提言する」
獲物の前で舌なめずりをするのは三流のやることだ。対象は無傷で捉えるべきだったが、もはや宗介の中でその域はとうに越えていた。
照準は既に済ませてある。敵の乗り込んだ改造雪上車は、装甲も武装も施されていない、この場で唯一の脅威目標。
M9系列の頭部に搭載された12.7mmチェーンガンは、ASとの戦闘では豆鉄砲だ。だが、雪上車相手なら軟な外装を撃ち抜いて搭乗員を十分に殺傷できる。
目の前のモニタ一杯に、雪上車がズームして映し出される。車両横の窓ガラス越しに、例の笑みを浮かべるヘクマティアルの姿を捉えた。
彼女は指をこちらに向けていた。人差し指と親指をピンと伸ばした形。どことなく<ヴェノム>がよくやって見せる"指鉄砲"のような不吉さを覚える。
ウルズ1からの返答を待つ暇はない。躊躇いもせず、宗介は握り込んだ操縦桿に埋め込まれているトリガーを引いた。
コンマの差もなく、液体炸薬が破裂して劣化ウラン弾が飛び出し――
――不発。システムが応答しない。
「どうした、アル。給弾装置の不具合か!?」
≪否定(ネガティブ)。火器管制システムに致命的なエラーを検出。再起動まであと5秒かかります。
散弾砲の強制撃発装置にもロックが。全武装オフライン≫
「なんだと?」
ポンコツめ、と呟こうとして、宗介は口を噤んだ。
極限環境によるハード側の不具合ならまだ納得できる。だがこの状況、このタイミングで火器管制全系統にシステムエラー?
有り得ない。その程度には、宗介は整備員やこの機体を信頼していた。
ならばこの状況は、敵の用意した罠の一環で――
思考の海に埋没しかけた宗介を引き戻したのは、通信越しに聞こえたクルーゾーの舌打ちだった。
『……いや、その時間は無いようだ。クソッ、まさか連中、これが狙いか?』
その意味を問いただそうとする、よりも早く。
音が聞こえた。
それは布がごつごつとした岩肌を擦過する音に似ており、地響きを連れ、そして白い瀑布を伴っていた。
撃ちこまれた榴弾を起点とした雪崩が、雪上のASには回避を許さない速度で迫り――
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