25:名無しNIPPER[saga]
2017/11/22(水) 22:10:11.23 ID:290cDT/E0
◇◇◇
『砲声を感知。データ照合。ソ連製122mm榴弾砲と合致――』
メリッサの機体に搭載された戦術支援AI"フライデー"がそう警告しきるよりも早く、発射された榴弾は狙い違わず目標に着弾していた。
「なん――っ?」
雪のせいでイライラするほどのろまな回避行動を取りながら、メリッサはM9の光学カメラの倍率を引き上げた。着弾したポイントを観測する。
自分達のいる場所から、数十メートルも離れた山肌に榴弾は撃ちこまれたようだ。当然ながら、こちらに損害はない。
だがそんなことはどうでもよかった。問題は、
『今の砲声は何だ? ウルズ6のライフルにしては音が大きかったが』
「砲撃を受けたのよ! 敵が――野戦砲を持ちこんでる!」
『なんだと!? 情報部の奴ら、また適当な情報を送ってきやがったってのか!?』
無線の向こうでスペックが喚き散らす。
無理もない。情報部の集めた情報を元に作戦は立案されている。この作戦とて、敵側にASを破壊できる性能の装備がないことを前提にしたものだ。
「それだけじゃないわ。問題は誰が撃ったかってことよ」
両チームで共有された情報をモニターに表示させる。確かに、脅威目標――ヘクマティアルの私兵は、8人全員が拘束されたことになっている。
「確認するけど、チームβ。そっちで3人、確保しているのよね?」
『いいや、こっちは2人だ。α(そっち)で6人だろ?』
やはりそうだ。情報が食い違っている。
(データリンクに介入された? 有り得ない。ミスリルのセキュリティを外部から破るなんて、アマルガムにだって不可能よ
……それに、情報部からの報告が間違っているのもおかしい。さすがに野戦砲なんて運んでたら、いくらなんでも見落とすわけがない)
情報が何者かに改竄されている。それが意味することは、
(内通者がいる? ブルーノみたいな?)
あの武器商に、そこまでの影響力が――ミスリル内部にまで及ぶ力があるとは思えないが。
だが事実として、自分たちはペテンに掛けられた。
「どうする? 予定とは大幅に食い違ってるみたいだけど」
『弾着修正して次を撃つまでは時間がかかるだろうし、作戦続行でいいんじゃねーの? 少し荒っぽくなるだろうけど』
クルツが滑空砲をヘクマティアル一行に向ける。彼らは大慌てで雪上車に乗り込もうとしているところだった。
流石に持ち込んだ野戦砲はひとつきりだろう。
砲声と弾着までの差異から、砲撃地点の距離と方向を算出すると、どうやら10キロ近く離れた麓の村から攻撃されたものらしいと分かる。
最大で時速200km以上を出せるASの機動力を考えれば、通常なら目と鼻の先といっていい距離だ。
だがこの状況では違う。突貫で積雪の少ない陣地を作り出したこの場所でさえ十全の機動性は発揮できない。
雪が更に数メートルも積もっているということになれば、ASは農業トラクターと大差ないようなただの鈍亀だ。間違いなく被害が出る。
現状、こちらから野戦砲を制圧しにいくのは現実的ではない。
ならばクルツのいう通り、目標を確保、あるいは『処理』し、速やかに撤退するというのが――
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