14:名無しNIPPER[saga]
2017/11/21(火) 20:05:15.68 ID:tuTmdYX90
テッサの呟きに、意味を図りかねたマデューカスが疑問符を浮かべる。
まさかこの少女が『なんでこんな悪いことするんでしょう。わたし悲しいです。くすん』などというセンチメンタルな台詞を口にするわけもない。
「それは……金儲けのためではないので?」
「彼女の主な顧客は各国の軍部です。
それに比べれば、テロリストとの取引額はお小遣い程度。だからこそ、"商品"を押収されても損失を補填し、即座に再起できた。
純粋にお金を稼ぎたいだけなら、軍との取引だけを続ければいい。支払いも確実ですし」
手元の資料に目を落とす。そこにはヘクマティアルと取引をしたマフィアが支払いを渋り、彼女の私兵に処理された一件も記載されていた。
「彼女は明らかに我々を意識した動きをしています。対応も、一武器商人としては目を見張るものです。
だからこそ、わたし達を相手にしてまでテロリストと取引を行う旨味は全くない。そんなことは彼女が一番理解している筈だわ」
「確かに、不可解ではありますな……HCLIが予定している、例のHek.GGの影響を見越しての布石ということは?」
Hek.GG――ヘクマティアル・グローバル・グリッドは、ダーナによるハッキングによって明らかになった、HCLIが近々発表するパッケージの名称だ。
民間会社による超効率的な兵站線・指揮通信システムの構築、維持。現代における軍の力を大きく変えかねない一手ではあるが、しかし、
「それを利用できない裏社会とのコネクションを築こうとしている、と? 確かにシステムが確立されれば、個人の武器商人はお払い箱でしょうけど……」
「HCLIの中心人物であるフロイド・ヘクマティアルとココ・ヘクマティアルの不仲は有名です。実父への反抗心、というのも考えられるのでは?」
「……確かに彼女の非合理的な行動は、感情面の問題だとしか思えません。でも……」
言葉に出来ないもやもやが、胸の内にわだかまる。
言い淀んで、テッサは自分の髪に手を伸ばした。三つ編みにしたアッシュ・ブロンドの毛先を、自分の口元に押し付ける。
彼女が迷った時などによくやる手慰みだったが、あまり良い癖ではない。
「艦長」
僅かにマデューカスの目が鋭くなるのを察して、テッサはぱっと手を放した。授業中、教師に内職が見つかりそうになった生徒のように。
「そうですね。確かに、考えても答えのでない問題です……いまは作戦に集中しましょう。カリーニンさん、SRTの状況は?」
マデューカスから目線を外し、テッサは陸戦ユニットの司令官であるカリーニンの方を見やった。
「すでに所定の位置で待機を。あの環境下ですが、機体及び操縦者にトラブルは見られません」
「サックス中尉には感謝しないといけませんね。M9の雪上での稼働データは、まだまだ少ないですから……」
「伝えておきましょう。標的とは15分後に接触の予定です」
「分かりました。全員に、機体状況の再チェックを済ませる様に伝えてください。特にマッスル・パッケージは、極低温下では収縮に遅延がみられることがあります」
「了解。パース1より全ユニットへ――」
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