13:名無しNIPPER[saga]
2017/11/21(火) 20:04:48.60 ID:tuTmdYX90
◇◇◇
北極海。ソ連北西部沿岸。凍てつく海の底に、作戦行動中の<トゥアハー・デ・ダナン>は待機していた。
「情報部より入電。標的が動き出したとのことです」
通信管制官からの報告。それを受けた<デ・ダナン>艦長、テレサ・テスタロッサは手元の資料をクリップ付きのバインダーに戻した。
事前に情報部から送られてきた標的の情報がまとめられたものだ。村へ持ち込んだ装備や、標的の村での行動が細やかに綴られている。
「艦長の読みが当たりましたな。敵は雪が降るのを待って、二手に分かれるようです」
マデューカス中佐が、モニターをみつめながら呟く。
彼の言う通り、彼らは取引相手のテロリストが根城にしている山頂まで、2班に分けて進むことにしたらしい。
「ええ。雪上車両を2台用意してたのは、やっぱりその為だったんですね。こちらの動きを警戒しているんだと思います」
「では取引場所がソ連、というのも?」
「可能性は高いでしょう。村までのルート選択も慎重を期していましたし、こちらが襲撃できるタイミングを極力減らそうとしている感があります。
通常の部隊なら、このタイミングでの襲撃は見送るのでしょうけど……わたし達はそうもいきません。その為の予算と装備ですから」
「情報部も、今回は仕事をしておるようですな」
世界中の情報を収集し、狙うべき標的を選定、作戦部に通達するのがミスリル情報部の大きな仕事だ。
今回の様に、わざわざ現場に張り付いて逐次情報を送ってくるというのはあまり例がない。
感謝すべきか? ――否。テッサは首を振り、マデューカスに呟き返した。
「彼らはヘクマティアルの"封じ込め"に2度、失敗していますから。作戦部(こちら)に借りを作りたくないんでしょう」
無論のこと、ココ・ヘクマティアルをミスリルが放置していた訳ではない。
だが作戦部が動くと多額の金と時間を、ひいては組織としての体力を使うことになる。対応すべき案件もヘクマティアルだけではない。
それ故に2度目の火消以降は、情報部の対外工作班による多くの攻撃が行われていた。
だが販路の差し押さえやコネクションの破壊を試みても、あの女武器商人はその全てに対応し、回避して見せたのだ。
ミスリル情報部が無能ということではない――彼女の武器商人としての才覚は異常だった。
個人資産もかなりのものになっている。かなり複雑な方法で分散させ、多種多様な形にしてあるので総資産は分かりにくいが、小国の国家予算くらいはあるかもしれない。
そうした資料に載っていた情報を反芻して、少女は僅かに小首をかしげた。
「……ヘクマティアルは何故、テロリストに武器を売るのでしょうか」
「は……?」
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