12:名無しNIPPER[saga]
2017/11/21(火) 20:04:05.89 ID:tuTmdYX90
「映画なんかだと、ASはパイロットの四肢の動きだけで動かしているように見えるけど、実際はそうじゃない。
セミ・マスタースレイブ方式が採用されているのは確かだけどね。それだけじゃあまともに動けないのさ。
実際のところは、いくつものパターン化されたデータを連動させて、初めてまともに稼働できるってくらいでね」
「……フムン?」
「フフフ、全く理解していないって顔をしているねヨナ……首なんか傾げちゃって! ま、とどのつまりはただの部品さ」
「……それって例の傭兵部隊が襲ってくるほどのものなの? 爆弾とかなら分かるけど」
「ほぼ、間違いなくね。今回は取引相手の規模が大きいし、それにたかがデータと侮っちゃいけない。
要は照準や回避行動のレベルが全体的に上がるということだ。上手くいけば、新兵が熟練した兵を倒すようになる。
かさばらないから、弾薬を運ぶよりはましだしね。さすがにこの雪山はトレーラーじゃ登れない」
ちらりとヨナから外れたココの視線の先には、村はずれの空き地に停車している雪の積もったトレーラーがあった。
寒冷地用にチューンされている型だが、それでもテロリスト達の根城に赴くには不足なのだという。
「……そういえば、テロリストなのによくASなんて運用できるね?
僕のいた基地でも、ボロボロの奴が二体あっただけだったけど」
「ヨナ隊員に大人の汚い事情を教えてあげよう。
彼らが所持しているRk-92はソ連が開発した東を代表する機体で、ここはソ連と隣国の境。そして隣国は消極的にだが西側に組している。
ちなみにここのテロリストがソ連側に実害を与えたことは一度もないんだ。不思議なことにね」
「……ああ、そういうことか」
「そういうことだ。ま、世は冷戦の真っただ中。このくらいの嫌がらせはそこら中で頻発しているわけだが――」
そこまで言って、ココが僅かに表情をゆがめるのをヨナは見逃さなかった
(……東西が睨み合ってる現状が、不愉快? でも、こうして"商売"の機会は増えてるのに)
訝しげに見返してくるヨナの視線に気づいたのだろう。女武器商人は直ぐにいつもの薄い笑みに切り替えると、ばふっ、と少年兵の肩ごしに抱き着いてきた。
「気にするな気にするな。そのうち君にも分かる時が来るよ、ヨナ」
「……重いよ、ココ。ほら、もう宿に着いたんだから、離れて。ドアが開けられない」
「なんだい、開けてくれるのかい? ここのホテルはサービスがいい。こんな可愛いドアマンを雇っているなんて!」
抱き着くのをやめないばかりか能天気にふんふんと鼻歌を歌いだすココに辟易しながら、ヨナはホテルのドアを押し開けた。
木と石で出来た建物の中は、暖炉の中で燃え盛る薪のお陰で十分に暖かい。
マフラーを外しながら、ココとヨナは仲間が集まっている筈の大広間に足を向けた。
「さあ、気合を入れろよ、ヨナ隊員。まずは連中から1勝をもぎ取る。3敗目は何としても阻止しよう」
「……気になってたんだけど、どうして1分けなの? 取引が成功したんなら、こっちの勝ちでいいんじゃない?」
「ああ……あれか。あれは結局、演習を総括してる人に払った賄賂で、儲けとトントンだったんだよね……」
「……なんでそんな意味がないことをしたんだ?」
唸るようなヨナの台詞を余所に、ココは大広間へと足を踏み入れた。
白テープを巻いた銃器に、雪上迷彩の耐寒コート。完全武装した私兵達の視線が集中し、ココがゾッとするほど冷たい、武器商人の声を出す。
「天候よし。雪の状態もよし――さあ、諸君。状況開始だ」
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