293: ◆Bc4KZX4MNU[saga]
2021/08/28(土) 22:36:59.37 ID:zsCwlIW10
―――【観覧車】
半周を周り、頂点を過ぎ下る観覧車
景色を見ている暇もなく、良子と京太郎はお互いの瞳を見あう
戒能良子は“彼”といた時のことを脳裏に思い浮かべあがらせながらも、激しく動悸する胸の前で手をぎゅっと握る
「……貴方は、私の唯一です」
「え、唯一……?」
すでに、景色は視界に入っていない
戒能良子に熊倉トシの思惑も計画も、関係などないのだ
ただ純粋に戒能良子は、目の前の少年に感情をぶつけるのみ
「っ」
あの日々を零にすることなどできなくて、足掻いている
諦めるつもりだった。彼は彼じゃないと、でも彼は彼と同じことを言うのだ
故に、良子は滲む視界を振り払って最後の言葉を紡いでいく
「私はっ、貴方のことがラブで……大好きです!」
ハッキリと口にして、ハッと気づく
自分が言っている言葉を、まだ彼にとっては出会って数日
そんな自分が口走った言葉の意味と、結果を
「戒能さん……」
「っ」
ビクリと震える良子
膝の上に置かれたその手に―――そっと手が重ねられる
「え」
顔を上げれば、そこには京太郎
先ほどより近いその目の前に、京太郎の顔が映る
優しい笑みを浮かべる京太郎
「遅れたけど、約束……守るから」
「きょう、たろぉ?」
「死んでも生きる……生き返る、かな?」
「ッ!」
笑顔を浮かべる京太郎の前で、堪えていた涙がぽろぽろとこぼれる
下っていく観覧車
京太郎は、そこに“存在していた”
307Res/205.01 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20