9: ◆TOYOUsnVr.[saga]
2017/11/16(木) 01:02:50.20 ID:4TBLGcT+0
○
「びっくり、しましたよね」
帰る途中、プロデューサーが言った。
「それは、その……まぁ」
スタジオを出てしばらく経つのに、未だにあたしはあの鬼気迫るレッスン風景に気圧されていた。
「……ああいう子が、たくさんいます」
続けて「あれくらい本気でやって、日の目を見ない子が、たくさんいます」と言った。
頭では理解していた。
けれど、目の当たりにして、認識の甘さを思い知った。
そうか、そうか。
あたしはそういう世界に来たんだなぁ。
痛いくらいに拳を握りしめて、運転するプロデューサーの横顔を見る。
この人は、何を思ってあたしにあの光景を見せたのだろうか。
あれで絶望するならそれまで、と早めにふるいにかけたのだろうか。
いや、今はどっちでもいいか。
言うことは一つだ。
「……頑張るよ。とりあえず、あたしがまず人並みに歌って踊れるようにならないと、アンタも仕事できねーもんな」
あたしのそんな言葉を聞いて、プロデューサーはちょっとだけ口角を上げた気がした。
「神谷さんをスカウトして良かった」
「いや、まだなんもしてねーから」
「そうですね。神谷さんが言ったとおり当面の間、神谷さんはスキルアップのためのレッスン漬けです」
「あー、うん。覚悟してる」
「そこからは、私の仕事。ただのティッシュマンじゃないってこと、証明しますよ」
「期待しとく!」
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