モバP「中野有香と怪しい武術プロデューサー」
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4:名無しNIPPER[saga]
2017/11/13(月) 18:38:07.08 ID:AW4FyFFm0

――


レッスン場のど真ん中、フローリングに沿って俺と有香は相対していた。

彼女が慣れた様子で礼をする。俺も遅れて礼をした。お願いします。

道着に黒帯を締めた有香がゆっくりと構えをとる。
両手を上げて左足をすっと前に差し出した。神誠道場特有の構えだ。
一般的な空手とはやや趣が異なるらしいが、俺には違いがよくわからない。
アイドルの彼女にはない気迫をまとっていることだけはわかる。

たんなる組手と思っていたが、どうも実戦形式のように見える。
素人に拳を向けていいのだろうか。俺は嘘偽り無く素人だ。

とにかく早めに終わらすべきだ。

俺も構える。腰を落として有香と同じように左肩を前に立つ。
違うのはだらりと下げたその腕だ。物理で使う振り子のようにゆっくりと所在なく揺らしている。
適度に脱力したこの姿は"流天十勁"は"戴天"の構えと呼ばれている。どん引きしないで欲しい。

「いきますっ!」

始まった。

有香が一足飛びで間合いを詰めてくる。
左足で強く踏み込んで、渾身の正拳が放たれた。

矢のようなその拳を、俺はすんでのところでかわす。予想外に速い。

避けられることも折り込みずみなのか、有香は勢いそのままに体をひねり、
一度背中を見せたかと思うと後ろ回し蹴りを繰り出してきた。

これも体を屈めてぎりぎりのところで避ける。
するどい蹴りが頭頂部の髪をじゃっとかすめた。これは。

強い。

有香が続けざまに下段回し蹴りを放ってくる。
後ろに半歩下がって彼女の蹴りをひらりと受け流す。
ここまで一度も攻撃はおろか、スーツに触れられてすらいない。

"流天十勁"は防御を是としない。衝突をさけ流れのままに身を逸らす、それが"流天十勁"だ。
恥ずかしいのであまり流派の名前を口にしたくない。いかがわしい新興宗教っぽさがある。

「くっ!」

まったく自分の拳が届かないことに業を煮やしたのか、彼女がまた一歩間合いを詰めてくる。
もう肩と肩が十センチの距離にある。

左、右、左の腰の入った連撃。通常ならば防御せざるを得ない場面。

しかし。

次の瞬間、俺の姿は彼女の背後にあった。
初撃の左に合わせてくるりと回転し、彼女の背中をとったのだ。

これが回避の極意、"霖天翻身"である。



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