34:名無しNIPPER[saga]
2017/11/13(月) 19:37:28.46 ID:AW4FyFFm0
なんだ。
じゃいいじゃん。
有香の足枷になっていたのが、他ならぬプロデューサーその人だったというのは、
まったくとんだお笑い草で、情けない話ではある。
何の疑問も持たずに気づけなかった俺も馬鹿だった。
しかしだとすれば、こんなに嬉しいことはない。
だって俺一人が犠牲になればそれですむというのだから。
この分なら有香にも迷惑はかけないですみそうだ。
ああ、辞めてよかった。本当。
有香の笑顔がフラッシュバックする。
辞めて――。
目元のすぐ下、涙腺のあたりが刺激される。
死ぬのが惜しい訳じゃない。どんな拷問を受けようがそれが何だってんだ。
でも、すげえ居心地がよかったんだ。プロデューサー業は本当に最高だった。
俺の"流天"はここにあるんだって。今が一番幸せだって確信できるそれほどに。
守るべきものがそこにはあったから。中野有香が俺の隣にいてくれたから。
彼女が大観衆を前に歌い踊るその姿を見ているだけで俺は満足だった。
あの日々はもう一生戻ってこない。
その事実が今になって辛く重く俺の中にのしかかってきた。
視界が徐々ににじんでいく。月の形がぼやけていく。
もはや天を望むことは、叶わないのか。
「命乞いの時間だぜェ〜!」
するかボケ。何だそのセリフは。
黒服の一人が角材を振り上げた。
その時。
廃倉庫の入口で、赤と青の光が交互にまたたいた。
これは……パトカーのランプ?
続けて三つの影が俺に向かって伸びてくる。
いや、三つではない。俺は目をこらしてそれを見た。
ツインテールと、一人の少女。
龍の仮面をかぶった149cmの小柄な体。
顔は見えないが間違いない。
それはアイドル、中野有香だった。
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