22:名無しNIPPER[saga]
2017/11/13(月) 19:14:01.09 ID:AW4FyFFm0
……結局、俺は肝心なことは何一つ言わなかった。
実家の都合で郷里に戻らざるをえなくなったこと、長男に代わって親父の跡を継ぐ意思を固めたことなど、
数々の嘘をでっち上げてその場その場を取り繕った。
そりゃ当然も当然で、このタイミングで「蛇老会、ぶっつぶす!」なんつったらやばいでしょ。
有香は俺の話を黙って聞いていた。
両目に涙をためながら、けれども俺から視線を外すことはしなかった。
どこまでも純粋なその瞳を前に、嘘をつかねばならないことが辛かった。
でも別離であっても今生の別れではない。
プロデューサーを辞めたとしても、またどこかで会うこともあるだろう。
すこし遠くに行くけれど、俺は変わらず有香を応援している。そう言って彼女を慰めた。
もちろん俺がテレビを通じて勝手に見るだけで、
もう二度とあいまみえることはないのだろうけど。LINEも退会する。
有香の眼から涙がこぼれていく。
嗚咽をこらえているのか、肩が大きく上下していた。
小さい体がいっそう小さく見える。
泣くことはない。るろ剣でもやってたことだ。
"流浪人"だったか。台詞も思いだした。
また流れていくでござるだ。
俺は彼女の手に自分の手を重ねた。
有香の勁が手の平ごしに伝わってくる。優しくて、暖かい。
噴水の音だけが響いていた。
水は、たしかに流れている。
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