モバP「中野有香と怪しい武術プロデューサー」
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17:名無しNIPPER[saga]
2017/11/13(月) 19:04:39.61 ID:AW4FyFFm0

――

全行程、終了。
レッスンもこれでお終いだ。
本当はまだ教えていない技もあるけど、もういいでしょう。
概要は掴んだと思うので、あとは各自で復習なりなんなりしてくれ。解散!

普段着に着替えた有香にその旨を伝える。
本当によくできた弟子だった。自慢の一番弟子だ。
俺は乏しい語彙でもって、彼女をやたらめったらにほめたたえた。

これまでの充足の日々が脳裏をよぎる。もう何年、彼女と一緒にいたことだろう。
あのステージも、このステージも昨日のことのように思い出すことができる。
……やめだやめだ、感傷に浸るのは。

ふと見ると有香は浮かない顔をしている。両手を握りしめ、うつむき加減に動かない。
免許皆伝がそんなに嫌か。水を浴びたせいで具合でも悪くなったのか。
彼女はふるふるとかぶりを振った。

「もう、おしまいなんですか?」

……。

そろそろ帰ろう。宵が近い。
きびすを返して歩き出そうとしたそのとき、スーツの袖がぎゅっと握られた。

「……」

じっと彼女が見上げてくる。
日が沈み、薄暗くなってきた中でもそれははっきりとわかった。
彼女の目が潤んでいること。何かを訴えかけてきていること。

この袖を離す気は、さらさらないということ。

おかしいと思った。空手一筋の彼女がなぜ突然教えを請うてきたのか。
カワイイにベクトルが向いてきた彼女が、なぜまた強さを求め始めたのか。

彼女は俺の意図に気付いていたのだ。自ら退こうという、俺の意図に。
だからレッスンにかこつけて俺を足止めしようとしていたのだろう。

もはや"雷天脱兎"は叶わない。



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