8: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/11/08(水) 04:00:47.02 ID:08pW5gpZ0
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「琴葉」
呼びかける声はとても優しくて。
「琴葉」
一緒にいた仲間もとても楽しくて。
「琴葉」
重ねた日々と積み上がった、想い出の大きさはとてもじゃないけどはかり切れない。
「琴葉、琴葉、琴葉……でもこの劇場は――ここで初めての一区切り」
振り返った彼女が私に言う。私が、私と立っている。
寂し気に笑う彼女の背後に、見慣れた劇場が建っている。
「まるで、一つの公演が終わるように。一つの世界が閉じていく」
彼女はおもむろに歩き出す。時が止まっている世界の中で、私の周りをグルグルと、回りながら話し続けていく。
「振り返ることはできるけど、懐かしむこともできるけど……。次に始まる物語は、どこか、ココとは違っていて」
彼女が私に顔を向ける。私は視線だけで彼女を追っていく。
「そんな無数の物語が、今この瞬間も生まれて閉じていく。
きっと私たちに知る術がないだけで、無数の"田中琴葉"の物語が……今もどこかで紡がれてる」
ピタリ、彼女が立ち止まった。まるで鏡を見ているような感覚だ。
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