22:名無しNIPPER[saga]
2017/11/07(火) 07:14:10.65 ID:lfj9bXFJ0
彼女を招いたのがお昼過ぎくらいの頃だったか。
今やすっかり日も傾いて、もう夜の帳が下りそうな時間だ。
もっとこう、時間もあれば多少は片付けて招けたのだが……などと、心の内で言い訳だけ噛み砕く。
彼女の尽力のおかげで、居住地だけではなく、トイレ、風呂、果ては事務所の隅々まで見事に綺麗になっている。
久々に自分の部屋の床が見えて感動していた昼下がりの自分が、また何とも残念な大人っぷりを醸し出していた。
サンディは、未だに事務所の床をモップで一所懸命に磨いている。
そんなに擦ると摩擦係数がなくなるんじゃなかろうかと思ってしまう程だ。
「お疲れ様、サンディ。まだしんどいだろうに、初日から無理させてごめんね」
「いいえ、ご主人様。私如きがお役に立てるのならば幸いです」
滔々と彼女は言う。
滅私奉公が義務のような言い方だ。
そんな言葉を使い慣れているのが、今までの環境を想起させてくる。
「君が居てくれて良かった。今日はこのくらいにして、夕飯にでもしようか」
そんな素直な感想を伝えると、彼女は一瞬ピタっと動きを止めて、目を大きく見開いて驚いていた。
何か不味い事でもあったのかと心配していると、
「……今、なんと?」
と、訊ねてきた。
「いや、もう今日は終わりにして、ご飯でも食べようかって……」
「いえ、その、前の、言葉です……」
「ああ、君が居てくれて良かったっていうあれか。 うん、僕の正直な気持ちだよ」
「……っ」
彼女はその大きな瞳から、滂沱の涙を零し始めた。
とめどなく流れていくそれを抑えようと、サンディは両手を顔に添えて必死に堪えている。
「も、もったい、ない、おこ、おことば、です……。
あ、あり、ありが、……うっ、ありがどう、ございまず……」
当たり前の言動で心が震えてしまうほど。
虐げられてきたのだろう。傷ついてきたのだろう。
今まで辛かったのだろう。
かける言葉は、今の自分には見つからない。
ただ今日の夕飯は、とても美味しいものを準備してあげたい。
そう心に決めた。
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