20: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2017/11/02(木) 01:55:38.29 ID:VDLHcmoz0
「…それがお気に入りなのは、三年前からか?」
「ええ、勿論。いままで着けてきてるのがいい証拠よ」
「…だな」
奏はまた笑った。さっきまで黙っていたのが嘘のように笑う。不偽言だったことを忘れたように顔を綻ばせる。表情全てを崩さない彼女の満面の笑みに、心が締め付けられる錯覚を覚える。
奏は変わったと思っていた。でも、変わっていないところもあった。
それは、彼女の笑顔。
奏の笑顔は、三年前から変わっていない。変わらずに、年相応で、可愛らしくて、魅力的で、今までを思い返させる。
「…奏」
「なに?」
俺の中にある、変わっていないこと。それは、ある一つに考え。考えと言うよりも、重いと言った方が近いか。
ああ、それをこんな所で言ってしまうのか。ムードも何もあったものでは無い。ロマンチストではないと目の前にいる彼女に怒られてしまうかもしれない。
唐突だと言われるかもしれない。それについては、すまない、と謝るしかない。でもこっちはずっと抱え込んできていたんだ。
あの冬から、あの夏から、いや、初めて会ったときから。俺が奏に対して、変わらず抱き続けていた思い。
スカウトした時から、初めて姿を見たあのときから、変えられなかった感情。
アイドルとして、高みへと順調に歩みを進めている奏に、この感情はいらない。邪魔になって、足を引っ張ることしかしない。こんな俺は、奏のプロデューサーとして、ふさわしくはない。言ってはダメなことなんだ。
「…Pさん?」
…ああ、意志とは裏腹に、言葉が止めどなく溢れてしまう。俺は今何を言っているのだろう。視界がぼやけてよく分からない。奏がよく見えない。
目の前の彼女はどんな顔をしているのだろうか。変わらないまま、今も笑ってくれているのだろうか。
…そんなハズはないだろうけど。
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