19: ◆U.8lOt6xMsuG[sage saga]
2017/11/02(木) 01:54:39.75 ID:VDLHcmoz0
奏の部屋の前に立ち、チャイムを押す。そして呼び鈴の下にあるカメラに映り込むようにドアから身体を離した。
『はーい、今…なに、Pさん?どうしたの?』
奏の声がした所で、カメラに件のものを映り込ませる。
「届け物だ」
『あっ…ありがとう、すぐに出るわ』
十数秒後、きっとまだ着替えていなかったのだろう、奏がドアを開けて俺の目の前に現れた。
「ごめんなさいね…」
そうと言って、俺の差し出したマフラーを受け取った。
「これ、お気に入りのマフラーなのに、忘れちゃうなんて」
私としたことが、とでも言いたげな表情を奏は浮かべ、そのままマフラーを胸に抱く。
…お気に入り、だったのか。
「…そうだったのか」
「そうって…これ、送ってくれたのは貴方でしょう?忘れたの?」
「いや、覚えているさ」
だからこそ、意外だったんだよ。俺の選んだ、探せばどこにでもあるただの赤いマフラーをお気に入りと言ってくれたことが。
二人で迎えた初めての冬、俺は奏にマフラーをプレゼントした。それ以降、彼女は寒くなる度にこれを身につける。丁寧に丁寧に補修し続けて、使い続けてくれている。
奏なら、もっといいものをいくらでも知っているだろうに。でも、このマフラーを使い続けている。その理由が気にがかっていたが、『気に入っていたから』というシンプルな解だとは思わなかった。
俺が覚えている、と言ったことは嘘ではない。それを奏も感じ取ったようで、安堵の息を漏らした。
「そう…よかった」
「…」
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