女戦士「死に場所を探している」ぼく「はあ…」
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29: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/10/29(日) 16:58:34.44 ID:c9/bqZoV0
 ―――――――現代、日本。
 とある大学にて、学生たちがうわさ話をしている。

「すごいよな、教授。また新しい特効薬を開発だってさ」

「女の人だってのに、すごいよね。いつ行っても研究してて、一体いつ寝てんだって感じだもん」

「今日も記者が殺到してるよ。まあ、いつもの通りあの人は取材には答えないんだろうけど」

「げー、あたしまた代役やらされるのかしら。もう正直めんどいんだけど」

 大学の北側、あまり日の当たらない研究室で、件の女教授は今日も試験管を睨みつけていた。
 こんこん、と部屋のドアがノックされる。
 どうぞ、と女教授が答えると、初老の男性が中に入ってきた。

「精が出ますな」

 穏やかな声音で男性は女教授に話しかける。
 実は、この男性がこんな風に声色優しく人に話しかけることはとても珍しい。
 初老の男性は女教授が研究する分野では結構な権威として知られ、その厳しい人格が有名な人物であった。
 彼がこんなに気を遣うように話しかけるのは、自分と対等以上の研究者と目の前の女性を認めているからに他ならない。

「昨晩もこの研究室の電気は消されることがなかったと聞きます。その熱心さ、私も見習わなくてはなりますまい」

「いえいえ、私など、まだまだです」

 女教授の声は凛として室内によく通り、聞く者を心地よくさせる響きをもっていた。

「今回の発見についても、たまたま。私はただ、あらゆる命を奪い去る強毒性の物質を探していただけ。今回は、たまたまそれが人に有害な物を殺すものだったから称賛された。それだけです」

「謙遜する必要はありません。あらゆるフィールドワークを厭わぬあなたの行動力が招いた成果です。出会って二十年は経とうというのに本当にいつまでも若々しい。その若さの秘訣を、今晩食事でもしながら教えていただけませんかな?」

「申し訳ありません。今晩の内に研究をある段階まで進めておきたくて……」

「これはいかん。また振られてしまった。本当に君はガードが堅い。浮いた噂ひとつ聞かんしな。実際のところ、いい人はおらんのかね」

「ええ、そういう人は、間に合っておりますので」

 女教授は男性に向かって柔らかな笑みを浮かべた。
 その表情からは、女教授がその場を取り繕うために適当を言っているようにはとても見えない。

「なんだそうか、おるのか! いやこれは失敬! それでは、こんな爺に誘われてもついていくわけにはいかないな」

「ええ、申し訳ありませんが―――――いえ、もしも、私の願いを叶えてくれるなら、私は喜んであなたにご一緒しましょう」

「ほう。では、その望みとはなにかね?」

 女教授は笑う。
 わずかに開いたドアの隙間から流れ込んだ風が、女教授の長く美しい金髪を揺らした。




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