16:名無しNIPPER[saga]
2017/10/15(日) 16:33:10.24 ID:bD1QFtux0
曲も終わる。
けれど、マスターがレコードを掛け替えているその静寂のおかげで、あたしの脳は危うく手放しかけた話の続きを、浅ましくも無意識に手繰り寄せた。
ただ、必死で掴んだその尻尾の先にあるものが何か分からなくて目をつむる。
(……何が『無理』なんだろう)
そのネガティブな響きが恐くて、あたしは物も言えない子供になる。
「なあ、俺が周子をスカウトした時、なんて言ったか、覚えてるか」
話が飛躍した理由を尋ねる余裕もなくて、あたしはただ頷く。忘れるわけがない。
出会って1分で「寂しそうだったから」なんてあたしが今までにされたナンパの手口と1ミリも変わらない。
なのになぜ、忘れられないんだか。
「最初周子を見た時はな、すごい子に会ったと思ったよ。そこに立ってるだけで違う。これは売れる、ってね」
「……ナマ臭い話、やね」
「それでそんな子が、どうしてこんなに寂しそうな顔をしてるんだろうって思って……きっと、今まで生活じゃ誰の手も必要なかったんだろうって考えた……ううん、違う」
違うんかい。
「他人に『誰の手も必要ない子だ』と思われて、手を差し伸べられなくて、それを羨ましく思いながら、結局誰にも言えなかった。やればできるから。できるのに助けを求めるのは、迷惑だと思ってしまったから」
見てきたように言うその口を、あたしは塞ぐことが出来ない。
「ウチに来てしばらく経った頃、ぽろっと言ったろ。ここが、自分の居場所だと思っていいのかなって」
もう遥か昔のことのように感じる。色々ありすぎたから。
「それが聞こえた時、嬉しいのと、泣きそうなのとあってさ。テキトーに見えながら、見せかけながら、今まで独りでいたのかって」
本当に、色々なことがあった。
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