6:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 01:34:36.79 ID:h3AcEulr0
☆
『……やっと見つけた』
小柄な少女は階段の踊り場で壁に手を突き、肩で呼吸をしながら額ににじむ汗をもう一方の手の甲で拭う。
視線の先にはどこかとぼけたような表情のスーツ姿の男がいた。小脇にはいくつかのファイルと、黒い表紙の紐で綴じられた名簿を抱えている。
『双葉か。そんなに急いでどうした? クラスのみんなともしばらく会えなくなるんだから、もっと教室でゆっくりしてても――』
『先生には、もう会えなくなるのに?』
先生と呼ばれた男の言葉が途切れる。首だけ向けていた姿勢を整え、改めて少女に向き直り彼は言った。
「……杏に先生って呼ばれるの、なんかいいな」
「ちょっと。やる気あんの? もうやめる?」
「あー待て待て、ええっと……『お別れ会はもう済んだだろ。まだ名残惜しいなんて言うのか? よりによってお前が?』
せせら笑って「先生」は言った。彼がそんな態度になるのも、普段の少女の言動を知っていれば致し方ない。
なにしろ、何かにつけ彼女は反発していたのだ。はねっ返りというような性格でもない。
それでも彼女が反発心を見せるのは、もしかして嫌われているからではないだろうかと悩んだ日もあった。今では、それも笑い話だが。
要は彼女は思春期で、彼女の反発しやすい手頃な大人の存在が自分であった。遅く来た反抗期のようなものだったのだ。
それはそれだけ身近に感じられていたということでもあって、教鞭を執る身としては喜ばしい話であった。
そう、思っていたのだが。
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