64:エイプリルフールだよもうちょっと続くかもしれない ◆q7l9AKAoH.[saga]
2018/04/01(日) 06:49:30.61 ID:FOwSYQ0x0
他のメンバーにパシリかと勘違いされるくらいに普段からよく働く誉望は、何もないのに無駄に偉そうにして椅子に踏ん反りかえっているのは何だか似合わなかった。
調査は下部組織にも回して進めているが進展は期待できそうになかった。
誉望が電子操作であちこちの情報を漁っても役に立ちそうなものは出てこない。
スマートフォンを無意味に取り出しても、数分前に開いたばかりのSNSはなにも更新がなくてただホーム画面に戻すだけだった。
そんな時、離れたところからかきねが誉望の方を見ていた。
用でもあるのかなんだか気にしているようだったが、近寄ってはこない。
邪魔をするなと言ったのを律儀に守っているつもりらしい。
誉望は一度見ないふりをして、少し考えていた。
今まさに暇ですることもなくて退屈している。
そこから更に難しい顔をして悩んだが、結局誉望は手を振った。
無言の重圧に負けてしまった。
「どうした」
「あのね。ぼーるがあった!」
かきねが持ってきたのは駄菓子屋にでも置いてありそうなおもちゃの袋だった。
小さなビニールのボールが五個はいっている。
これで遊びたいのか。
そんなの一人でしていろと思うのだが、かきねだってよっぽど遊びたければ袋くらい自分で開けるだろう。
「ぼーるしよ? いーい?」
「……貸してみろ」
「すごーい!」
パッケージを開けて、指を立てた上でボールを一つ飛ばすとかきねは大喜びした。
その後、数を増やして浮かせたり投げたりしてお子様の遊びにつきあってやった誉望だった。
「すごいなーかっこいーなー」
段々と子どもの相手も慣れてきたのか、諦めたのか。
褒められると悪い気もしないだろう。
かきねが寄ってきてもイラついた態度を見せなくなってきた誉望は舌打ちをすると頭をかいた。
「……誉望でいいよ。もう」
ふざけて調子に乗ってはじめた様付けをやめる気になったのか。
それを聞いたかきねはいいの? と首を傾げてからうれしそうににこにこする。
「じゃーね、ばんか。かっこいーもん」
「……そうか?」
「ばーん! ってかっこいーの」
「あっそ」
謎のセンスだがどうやら気に入られたようで、誉望は様付けから呼び捨てに格下げされた。
「ばんかばんか、ごほんみて。よむぞー」
子ども用に服の他におもちゃなどの荷物も運ばれてきていた。
この隠れ家にはおもちゃどころか無駄なものがほとんどなかったからだろう。
かきねはその中から絵本を持って、わざわざ誉望のところにやってきた。
「『むかしむかしあるところに、おじいさんがいました。おじいさんはまいにちやまにいってたけをきっていました』よーし、ここまでわかった?」
得意げにページを広げてみせられて、誉望は別に関心もなさそうにしていた。
ひらがなだけの絵本。
中身も有名なおとぎ話だ。
心理定規にでも見せたら、大人っぽい女子目線でつっこみもいれてくれそうだ。
「これ、かぐや姫だろ」
「おれまだなんのごほんかゆってないのに! ばんかすごいな! えっと……『あるひ、おじいさんが』……んしょ」
ネタばれまでされたのにまだ続きを読もうとする。
途中まで読んでいたかきねだが、本を持ち直すのに一度下に置いた。
そこまで分厚くもない本でも五歳には重たいのかもしれない。
「ったく、貸せ」
誉望がそう言うと子どもには大きな絵本はかきねの前で宙に浮いた。
開くと勝手にページがめくられていく。
「『金に光り輝く一本の竹を見つけました』」
「わー、まほーのごほんだ」
もしかしたら、それまでの部下としての癖がつい出ただけかもしれないが。
念動能力のエキスパートになると、子守もこなせてしまうらしい。
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