かきね「すくーる?」
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6: ◆q7l9AKAoH.[saga]
2017/10/09(月) 04:01:48.31 ID:CdsvNY5b0

「これは……懐いたってレベルじゃねえべったり具合ですね? 心理定規さん」

ついさっきまで怖がっていたのが嘘みたいに心理定規に懐くかきね。
相変わらず、いや予想以上の効果だな……と誉望は大げさな丁寧口調でうなずく。

「距離単位二〇くらいのつもりなんだけどね。この子にはこれが近過ぎるのか、効果が強く出てるのかもわからないわ」

「でもコアラの親子みたいで非常に微笑ましい光景っスよ」

オヤ、シャシンヲトルンデスカ? とセリフを再生するスマホを二人に向けて、誉望はおーいと手を振ったが、

「……やだ。あっちいけ」

コアラの子どものようにおねえちゃんに抱きついていたかきねが心理定規の肩ごしに睨みつける。

「あっはい。すんません邪魔でそうですね俺なんかいても邪魔でしかないよな」

「そんなにショック受けないで。私もさっきから、このおかしな状況に驚いてる余裕くらい欲しいんだけどな。多分、小さい子は一つのことで頭も手もいっぱいになっちゃうのよ」

「ここまでばっさり他人のATフィールドに拒否られたのは久々だ……あれですか心理定規さんにツッコミ解説担当を強いてる俺のヘタレさへのおしおきっスか」

「だから私のせいじゃないってば。気にしすぎじゃない?」

そう言いながらも、いつも以上に面倒な自虐ネタに走る誉望はスルーして。
やだやだ、と不機嫌になってしまったかきねの頭をあやすようになでる。
その姿はおねえちゃんと言うよりおかあさんみたいになっている心理定規だった。
そんなことをしているうちに、不機嫌の方に傾いていたゲージの針が反対側に振れたらしい。

「おねえちゃんいいにおい」

「そう? 香水つけてるからかな」

「いーにおい」

「心理定規、小さい垣根さんがにこにこしてますよ。うわっ、いつもの垣根さんからはぜってえ想像出来ない無邪気な笑顔が……あ」

「何」

「貴重な『ドヤらない』垣根さんの笑顔じゃないスか! 営業スマイル抜くと……多分、俺初っス!」

「へえよかったわね。今私にそれ、見れると思う?」

「そっスね」

肩のあたりに抱きつかれて、見えないだろう本人の代わりに実況していた誉望だが。
こちらにもばっさり切り捨てるようなトーンでツッコミを入れられて素早くスマホを取り出した。
シャシンヲトリマース…の音声の後に保存されたブツはきっちり彼女に送信されるだろう。


その後すぐに、心理定規はかきねへの能力使用をやめた。
調節の難しい状況で距離が近すぎるのはかえってやりづらいと判断したようだ。
と、言うか。
その間かきねはカモの子どものようにおねえちゃんの後にくっついて離れようとしなかった。

「これで元通りかしら。おねえちゃんが一緒にいなくても大丈夫? 手を握ってる?」

「ううん。へーきです」

心理定規はあえて、さっきまでなら喜んで甘えてきそうなことを聞いてみた。
だが、無事に効果は消えているのだろう。
かきねはいい子の顔でお返事をした。

「良かった。問題なさそうね。いいのよ? もっとお友達みたいに話して。そうやっておしゃべりするの大変じゃない?」

「そーですか?」

「そうよ。それにそっちの方がうれしいな。仲良しみたいでしょ」

「なかよし」

仲良しがうれしかったのか。
かきねはそっかそっか! とジャンプしている。

「これから私たちとは……仲良くしてもらわないとね」

ビジネスライクな距離感を保っているといつだったか言っていた少女は内心複雑なのか、それをみて薄い笑みを浮かべる。




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