5: ◆q7l9AKAoH.[saga]
2017/10/09(月) 03:58:09.47 ID:CdsvNY5b0
「なんで、おれは、ここに……いるんですか」
「なんでと言われてもっスね。俺が聞きたいっつうか」
しどろもどろな誉望の不審な様子に、じーっとそれを見ていた子どもの目にはじわじわ涙がたまっていく。
やっぱり危ない人たちにつかまったんだ! なんて泣き出されてもおかしくない状況だった。
追い詰められた様子に誉望の方があたふたする。
子どもが泣き出すのは彼にとってオレンジ以上の警報と同じくらい効果がありそうな慌てぶりだ。
「うわわわわ、心理定規ー! にらんでる垣根さんがどんどん涙目にー?!」
「このおうちで一緒に遊ぶからよ。ほら、こっちにいらっしゃい」
「どーしてですか」
「そうね……お昼ごはんまで時間があるでしょ。いっぱい遊んだら、ご飯まであっと言う間よ。何がいいかな? そうだ。みんなで考えましょうか?」
「うーん。いいよ」
ご飯、遊ぶ、何てワードが興味を引いたのか。
少し悩んでから小さいかきねは緊急避難場所から出てきてくれた。
「垣根さん、小さいのにちゃんとしてるんスね」
「おとなのひとにはちゃんとおはなししないとだめなんです。おをつけてていねーに。しらないひととは、おはなししちゃだめ」
一生懸命、まじめな顔で話してくれるかきね。
五歳児からみたら中学生くらいの心理定規でも大人に見えるだろう。
それにしてもよっぽど厳しいご家庭だったのか。
もしかしたら親ではなく、こっちでついた教育者の方針かもしれない。
五歳はちょうど学園都市での能力開発がはじまる一番早い年齢だ。
垣根の昔のことなんて心理定規たちも詳しくは知らないが。
厳しい幼稚園の先生よりは、開発官の影響の方が……超能力者だしありえそうな話だ。
「私たちはもう知ってる人ね? いいのよ何でも気軽にお話しして」
「そっか。ごあいさつしましたね」
「……いいのか、いいのかそれで」
心理定規の言葉に納得したらしく本人はにこにこしているが。
聞き分けが良すぎる気もする小さいかきねに、誉望は不安が増したようだ。
「はー。でもよかったーひとまずテーブルからは出てきてくれたっスね。あのままじゃ落ち着いて話し合いも出来ないっスよ」
「はぁ……とりあえず興味をひければいいんだけど。小さい子って次の行動が読めないわね」
おねえちゃんにぶかぶかのセーターの袖を折ってもらったかきねは動きやすくなったのか、今は部屋の中をちょろちょろしていた。
広い室内は見るところがたくさんある。子どもの興味もひいたようだ。
その様子を気にしながら二人はお子様への対応を相談していた。
誉望は宅配デリバリーのメニューを調べるよう、早速用事が言いつけられている。
「心理定規なら能力でお子さまのハートも一発ゲットだと思ったんスけど。違うんスか」
「私の能力は、ある程度対象の心の中の尺度に依存するのよ。個人の人間関係どころか、価値観が曖昧な小さい子だと余計に不安定になりそう」
試してみてもいいけどと心理定規が言ったすぐ後、少し離れて部屋の奥の方にいたかきねはとことこ歩いてきて心理定規を見上げた。
「ね。ねー、おねえちゃん」
「はい。これでいい?」
手を引っ張られて心理定規はかきねの頭を撫でてやった。
小さくなる前と同じ明るい茶髪だ。
まさかこんな歳から染めてたのか、それとも実は地毛だったなんてことはあるのかどうか。
頭をよしよししてもらっても、かきねは不満そうに心理定規にくっついていた。
「んーん。だっこ」
椅子に座ると心理定規は膝の上にかきねを抱き上げる。
「もう……ほら、あっちのおにいちゃんに遊んでもらう?」
「んーん」
ぎゅっと背中に腕を回したちびっこは、誉望の方なんて見もしないで嫌そうに首を振った。
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