17: ◆q7l9AKAoH.[saga]
2017/10/31(火) 03:10:56.54 ID:x6mL7DL40
「うぃーん……はっしん! し、ま?」
「それはぜかましっちっス。連装砲くんがこれっス。あとこっちのが……っと」
艦っちのおなかについていたひらがなの名札を読んでいたかきねに、誉望は椅子から立ち上がるとテーブルの上に次々人形を並べてキャラ紹介をはじめていた。
が、解説しながら段々遠くに離れていく。
流石におかしな行動は子ども相手にもばればれだった。
「なんでうーんとそっちいくの?」
「半径約一.二メートル直近五〇センチ、これが対小さい生き物仕様の俺のレッドゾーンなんで。一定の距離を保たせて欲しいんです」
「なんとかぞーんってなに」
「入ると大変なことになります。と、言うか俺的にはそれだとうっかりでさわれるってのが問題なんで。あんまりこっちには」
「よーし」
まだ説明の途中だが、かきねは質問をやめて両手をぐっと握って少し腰を落とす。
誉望の方を向いてなにやら狙いを定めていた。
「って解説中に何をしようとしてるんですか?!」
「たっくる」
「なんで!?」
「たいへんなことになるんだよな」
そう言ったかきねはとってもキラキラした目をしていた。
これはあれだ。
絶対するなよ! と言ってここ一番のおいしいネタを振るための呼び水だと思われているのか。
実はこんな純粋そうな顔をして、大変なことがみたいなんて破壊願望を持った恐るべきお子様なのか。
どちらにしても誉望本人は面白くもなんともない。
「期待されている?……違うそう言うフリじゃない! 押しちゃダメなやつなんだって、うわぁああ助けて心理定規ー!!」
唯一頼りに出来る相手を必死に呼んだが心理定規は丁度席を外している。
絶対絶命のピンチ。
誉望の後ろには別の椅子、障害物があるから逃げるなら横だがそれでかきねが転びでもしたらまた大変なことになりそうだ。
そんな風に悩んでいる間に、かきねの方は用意かチャージでも済んだのか。
「えいっ!」
ちびっこリーダー砲が駆け足で発射された。
衝撃に備えて何とかその場に踏みとどまろうとする誉望。
しかし、予想より衝撃が小さい。
小さなお子様の渾身の攻撃は日頃からダメージ慣れしている暗部の少年には軽すぎた。
もしカウントがついても一桁にしかならないだろう必殺技。
そのあまりの頼りなさに誉望の両足から力が抜けた。
ぶつかられるまま後ろに押しやられる。
椅子につまずいて転倒、挙句後頭部を強打。
目の前がチカチカしている誉望は近くにいるだろうかきねにどいてもらおうと右手を上げた。
たいへんなことを期待しているかきねは、
「なんもおきないぞ?」と言う顔をして誉望を見下ろしている。
さっき接触したばかりの小さい質量の存在をばっちり視認して、ついでに足の上の重みに彼は更に気づく。
終わってはいない、いまだ継続中である。と。
びたりと宙に止まった手がぶるぶる震え出した。
「っぎゃー!!! げふっ!」
「うわー!」
許容量を超えた精神的な負荷に思考回路をやられた誉望が悲鳴を上げる。
それにつられてびっくりしたかきねも叫ぶ。
咳き込む誉望、なにやら赤いものが口から。
更に広がる混乱。
大騒ぎになってしまった所に心理定規が戻ってきた。
騒がしい誉望の様子に、かきねに何かないかと心配したようだ。
「何してるの君たち」
「おねーちゃん! よぼーがしんじゃう!」
「いて……いてえ……」
物理小ダメージなのに相性が悪すぎて大化けしたメンタルへのクリティカルヒットにすっかり瀕死の誉望。
口元からガチで血を出しているのを見たかきねは大慌てだった。
シャツを引っ張って起こそうとする、失敗。
また起こそうとする、失敗。
ゴロゴロ床の上で転がされるその繰り返しが非道な死体蹴りになっているとは、いたいけなおこさまは気づかない。
そもそもかきねがどいてやらないと下敷きにされた誉望が自力で起きられるはずもないのだ。
混乱しきった場にためいきをつくと、心理定規はそっとかきねの肩を触った。
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