9: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 20:55:45.45 ID:7+Q2lD4p0
しばらく何も言えないでいると“文香、じっと顔を見られていると、恥ずかしい”と言われてしまいました。
ひょっとしたら頭がぼーっとしていた所為で、不躾な視線を送っていたのかもしれません。
私は慌てて横向き寝の状態から、Pさんと同じように仰向きになりました。
そのときです。
毛布の中で身を捩ったそのときに、Pさんと私の左手の指先が触れ合ったのです。
ほんの少し、小指の先端同士の一瞬の接触。
すみませんと言って、急いで手を自分の体に沿わせ、Pさんの指から離れました。
ついさっきまでPさんの横顔を穴が開くほど見つめていたというのに、今ではもうPさんの顔を見る自信がなくて、天井に視線を走らせます。
指先の感覚はまだすぐ近くにPさんの手があることを教えてくれていました。
異様に研ぎ澄まされた指先の感覚が、Pさんの指先から発されるじんわりとした輻射熱を感じ取っていたのです。
そしてその熱は、毛布の中で存在感をゆっくりと増してゆき…遂には再び触れ合いました。
今度こそは偶然触れ合ったのではありません。
Pさんが私に触れんと手を寄せたのです。
小指をくすぐられたので、くすぐり返すと、自然と小指が絡み合いました。
すると、半身に身震いしてしまう程の甘い疼きが駆け巡って。
動かなかったはずの首は勝手にPさんへ向いてゆき、見つめ合いました。
とても真剣な表情で…彼も私も何も言えず…いえ、何も言う必要がなかったのです。
この小指同士の繋がりだけでお互い言わんとすることが伝わるような…もっと言えば、お互いの全ての気持ちを理解し合えたとさえ感じたのですから。
数分か、数十秒か、それとも僅か数秒のことだったのかもしれません。
それはもう今では判然としませんが、ただただ幸福な時間でした。
間違いなく、これまでの人生の中で最も幸福な時間でした。
(そうでなのです! 私は確かに幸せを感じていました! 幸せというものを私だって知っているのです!)
しかし、幸せに終わりが来るのは世の常、世の習い。
そのときはいつも唐突にやって来るのです。
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