鷺沢文香「偽アッシェンプッテルの日記帳」
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10: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 20:58:01.71 ID:7+Q2lD4p0
テーブルの方で響いたガラスの音が終わりの合図でした。

何事かとPさんと二人して首を上げて様子を伺います。
どうやら美波さんがテーブルの上でグラスを倒してしまったらしく、皆さんが酒宴そっちのけで処置のために慌てていました。
とはいえ、その慌ただしさはすぐに収まりました。グラスも割れませんでしたし、皆さん手慣れていましたから。

しかし、騒がしさが戻ろうとするところで美波さんが言いました。

“すみません。私も酔ってしまったみたいです。少し眠らせてもらっても良いですか?”

Pさんとの小指の繋がりは、いつからか切れていました。

頬を赤く染めた美波さんがベッドに近づいてきます。
先輩方はテーブルの周りに座ったまま美波さんを囃し立てるばかりで、彼女を止める者は誰もいませんでした。

こうしてPさんを真ん中にして、私とPさんと美波さんの三人が一つのベッド、一枚の毛布の中で共寝する状況が出来上がったのです。
なんとも心の落ち着かない川の字でした。

セミダブルのベッドとはいえ、三人で寝ればもう殆ど余裕はありません。
先ほど指先だけで融けてしまいそうな心地であったのに、今では左腕と左脚の側面全体で彼の体温を直に感じることになってしまいました。
あまりの緊張に全身の毛穴が開いていく感覚がありました。

呼吸が止まっているのかと思う程に息苦しく、それなのに胸には甘酸っぱい痺れが溢れて…。

“美波も仰向けになってくれないか? こんなに近くでこっちを向かれていると、恥ずかしい”

この状況にはPさんも相当困惑していたのでしょう、絞り出すようなそんな声。
私の左側の彼と美波さんの寝姿を想像すると胸底がツキンと痛み、次に聞こえてきた美波さんの言葉に、耐えられず目をギュッと瞑ることになりました。

“ごめんなさい。私、横向きじゃないと眠れないんです”

どうして私は横向きで寝る癖をつけていなかったのかと、そんな見当違いの馬鹿げた考えが浮かんだものです。
今思えば、一応私も競争心だとかいう類のモノを持っていたのかもしれませんね。
(表に出さなければ、持っていないのと同じですが)

否応なく彼の横顔に美波さんの甘い吐息がかかる光景を想像してしまいます。
それが辛くて辛くて。
私は意識を別のところへ遣ろうとして…その結果、眠りに落ちてしまったのです。

そして、次に目を覚ましたとき、世界は変わっていました。


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