鷺沢文香「偽アッシェンプッテルの日記帳」
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5: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 20:46:02.56 ID:7+Q2lD4p0
そのように、当時の私としては、愉しいひと時を噛みしめているところで声を掛けられました。

美波さんでした。

どうやら美波さんも私がお酒に苦戦していたことに気付いたらしく“これなら飲みやすいかも”と、別のグラスを差し出してきてくれたのです。
丸みのある透明のグラスに注がれたそれは、一見するとコーヒー牛乳のようでした。
ですが甘い香りの中には仄かなアルコール感があり、やはりそれもれっきとしたお酒と分かります。
正直なところ早くもお酒に辟易していたのですが、礼儀として一口も飲まないわけにはいかず、書を投げ捨てる心持で口を付けたところ…。
意外や意外、それは見た目と香りの通り甘く、とても飲みやすかったのです。
甘いだけでなくアルコールらしさもある大人の味、喉を通った後に残る心地の良い火照り…これこそが私がイメージしていたお酒でした。
これまでの鬱憤もあってか、グラスを呷る手が止められません。
グラスが空になると美波さんもすぐに次を注いでくれます。
そのようにして矢継ぎ早に3杯飲んだところまでは覚えています。

気付けば、私は床に敷かれたラグマットにへたり込んでいました。
上体を上げようとしても体が言うことを聞かず、どうにか視線だけを上に向けると心配そうな皆さんの顔…がグルグル回っています。
自分の許容量を知らないくせに、お酒の美味しさに溺れてしまった愚か者の末路でした。
回っているのは視界だけで、頭はちっとも回りません。

美波さんが私の肩を支え、ソファに寝かせようとしてくれているのが分かりました。
そのときの私は兎にも角にも瞼が重く、どこでもよいから寝たい気持ちで一杯だったのですが、柔らかい場所で寝られるなら拒む理由はありません。
美波さんを支えにして立ち上がってソファまで歩かせてもらい、しかし、いざ倒れ込もうとするところで、早苗さんから“待った”の声がかかりました。

私が酔っているのか、それとも早苗さんが酔っているのか。
早苗さんのおっしゃることはどうにも支離滅裂に聞こえて論理が理解できないものの、結論だけははっきりと伝わりました。
私が寝る場所はソファではなく、早苗さんの指差す方向…壁際に配置されたPさんのベッドだというのです。

心臓を掴まれたように、胸がきゅうと痛みました。

思えばそのときから私の酔いは急激に冷め始めたのですが、反駁できるまでにはもうしばらくの休息が必要でした。
私の代わりに美波さんが、Pさんのベッドで眠ることの微妙さを説いていました。
しかし、いくら美波さんでも酔っ払い4人を相手取るには難しく…それなのに、頼みの綱のPさんは私の身代わりにかなり酔わされていて、俯きながら“文香が嫌でないなら”と言うのがやっとの状態。

そうして結局、私は普段Pさんが眠っているベッドに寝かされることになりました。
人一人が寝るにしては随分と広いベッドだったので、セミダブルの大きさだったのだと思います。


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