鷺沢文香「偽アッシェンプッテルの日記帳」
1- 20
4: ◆FVs4HrY/KQ
2017/10/06(金) 20:44:36.70 ID:7+Q2lD4p0
私の誕生日会のメンバーは私、Pさん、早苗さん、川島さん、友紀さん、楓さん、そして、美波さん。
ローテーブルを囲んだ皆さんによる、有難くも温かいお祝いの歌の合唱で誕生日会が幕を開けました。
ですが、穏やかに過ぎたのは最初の十分ほどだけ。
それからは真の目的である、先輩方による飲酒講座…という名の飲み会の幕が上がりました。
開幕の宣言と同時に私の眼前に並んだのは、お酒好きな4人の年上の先輩方がめいめいにお酒を注いでくださったグラスが4つ。
お酒の種類もグラスの造形も正に四者四様。
お酒とグラスはそれぞれの方からの誕生日プレゼントという体でした。
聞けば、どの銘柄も上戸にとっては垂涎モノの逸品なのだとか。
そして流石はお酒に関して一家言お持ちの方々。その御酒が注がれるグラスもまた特別にして素敵。
舌だけでなく、目でも愉しませていただけるとは…と、その粋な計らいには感謝はもとより、尊敬の念を禁じ得ませんでした。

先鋒は満場一致で友紀さんのビールと決まりました。
友紀さんの故郷である宮崎から取り寄せたという地ビールは、有田焼のグラスの中でシュワシュワと小気味良い音を立てていて…。
未知の体験への、一の不安と九十九の期待。
しかし…。これは本当に残念極まりないことだったのですが、最初の二、三口で期待は落胆へと変わっていました。
ビールはただひたすら苦かったのです。
それに『のど越し』というのも私には一体何のことか分からず…。
キラキラとした瞳で感想を待つ友紀さんに正直な感想を言えるはずもなく、曖昧にうなずくことしかできませんでした。

他のお酒も似たようなものでした。
ワインは渋く、日本酒と焼酎は喉が焼けるよう。
飲酒の経験を積んでゆけば、感じ方もまた変わるのかもしれませんが、当時の私にはどれも毒薬としか思えなかったのです。

愉しそうに語られるお酒についての口上は右耳から左耳へ抜けてゆき。
私は皆さんの善意に対して失礼のないよう、四つのグラスに代わる代わるちびちびと口を付けるのが精一杯。
こんなものをどうすれば笑顔で嚥下できるのか。
グラスの中身は減っては増えるを繰り返し、いつになっても終わりが見えません。
寧ろ更に4つ追加されたところで完全に途方に暮れてしまい、Pさんに助けを求める視線を送ることになりました。

おそらくPさんは、私の様子がおかしいことに気付いていてくれたのでしょう。言葉は必要ありませんでした。
やおら私の前の8つのグラスに手を伸ばし、先輩方の制止を振り切って、あっという間にすべて飲み干してくれたのです。
その瞬間にターゲットが私からPさんへと移り、私はようやく安息の時を得ることができました。
(皆さんは結局のところ騒ぐことが出来れば満足なのでしょう)

私の防波堤となるために、お酒で顔を赤くしながらも、4人のお酒の妖精に果敢に立ち向かうPさんはいつも以上に頼もしく、彼の横顔から視線を外すことができず…。
時折私を気遣うようにこちらへと視線を送ってくれたときには、お酒の力もあってか、じぃと見つめ返してしまいました。
書庫に閉じこもっていた時からすれば、大きな進歩だという見方もできますね。(虫けらの一歩にも劣る進みですが。)


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
22Res/28.55 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 書[5] 板[3] 1-[1] l20




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice