37: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:27:46.35 ID:r5zFZECu0
「クラリスさん」
小さな声でも、この教会の中では僅かに響く。
「アイドルに興味はありませんか」
38: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:29:42.51 ID:r5zFZECu0
アイドルには、二通りの生まれ方がある。
自分からそうなりたいと願い、オーディションを経て選ばれるものと、
スカウトによって、本人の意志とは遠いところから選ばれるものと。
39: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:30:45.58 ID:r5zFZECu0
スカウトした相手にも、それまでに送っていた人生がある。
学校、仕事、家族、恋人。
40: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:32:06.21 ID:r5zFZECu0
彼女と初めて会った晩に手渡されたコピー用紙には、経営の行き届かなくなった教会に対しての寄付を募る旨が書いてあった。
端正な文字で、迂遠に記されてこそいたけど、このままだと遠くない先に売り払わなければならなくなるとも。
41: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:32:49.34 ID:r5zFZECu0
それでも彼女の笑顔には、温かさがあった。
その歌声には、心を震わせる魅力があった。
なににも代えがたいひかりが宿っていた。
42: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:34:06.93 ID:r5zFZECu0
「私が、アイドルに、ですか?」
口をぽかんと開けて、彼女が尋ねてきた。
「はい」
43: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:35:18.11 ID:r5zFZECu0
下世話な話だけど、アイドルだって職業である以上、仕事ぶりに応じて給料を得ることができる。
彼女がトップアイドルとして活躍できるようになれば、時間をかければ教会を立て直すことも不可能じゃない。
44: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:36:15.22 ID:r5zFZECu0
彼女はくちびるを強く結んで、真剣な表情を浮かべている。
じっと、なにかを考え込んでいる様子だった。
45: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:38:14.89 ID:r5zFZECu0
「私を育てていただいた、大切な場所です」
決して言葉の調子は強くはなかったが、はっきりとした輪郭を帯びていた。
46: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:39:30.22 ID:r5zFZECu0
「お尋ねしても構いませんか」
花弁に触れるような、慎重な言い方だった。
緊張を覚えつつ頷く。
47: ◆K5gei8GTyk[saga]
2017/09/30(土) 15:40:50.89 ID:r5zFZECu0
「あなたの笑顔と歌声に、とても美しい輝きを見つけたからです」
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