338: ◆Xz5sQ/W/66[sage]
2019/02/08(金) 23:43:10.75 ID:3Bz7WrAj0
しかしながら、紗代子が求めるのはソースと青海苔で彩られた熱々の焼き円盤ではない。
和食の王道鯖定食、男子に人気のカツカレー、パラッと炒られた炒飯でも、大盛りボリュームな丼物でも当然無い。
彼女の視線は壁に貼られたそれらのメニューを通り過ぎ、
色紙に書かれた野太い文字、黒マジックの描く荒々しい筆跡の上にて停止した。
「すみません、たい焼き一つ貰えますか?」
凜とよく通る声は紗代子の自慢の一つである。
人差し指を一の形にちょんと伸ばし、彼女はカウンターに立つ顔見知りの女店員に自身の要求を願いあげた。
すると老婆と呼ぶには絶妙に歳足らずな店員は愛想の良い笑顔を浮かべ。
「ちょうど今、焼き上がったの」
おばちゃんの言葉にしめしめしめ、紗代子は内心ほくそ笑んだ。
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