150: ◆Xz5sQ/W/66[sage saga]
2018/01/21(日) 18:52:13.74 ID:kNu55X8Eo
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見苦しい、ただそう思った。目の前で這いつくばっている標的は、
ジタバタと不自由な手足を動かして、なおもこの場から逃走を図ろうと必死だった。
ありふれた貧しい山村を恐怖に陥れた原因。血と欲望に飢えた獣のような生き物ヴァンパイア……。
家畜を襲い、人々の生活を弄び、増長と無益な殺戮を楽しんだ末の代償。
この土地の領主より討伐を命ぜれた騎士団員たちの手によって、彼女は罠にかけられ、無様に逃げ出し、
鬱蒼と木々が立ち並ぶ森の奥深くで、今は命乞いの為にその目を涙で濡らして訴える。
「堪忍、堪忍や!! さっきから何度も言ってるやん、もうこの土地からは出て行きます……!」
反吐が出る言い訳。心にも思って無いだろう言葉。
これまで幾人もの無力な人間を、その手にかけて来た者の口から出たとは思いたくも無いほど陳腐な台詞。
「ふん……貧民街のゴロツキでも、こういう時にはもう少しマシな嘘をつくぞ」
構えた剣を握り直し、怪物退治を生業とする天空騎士団団長チヅルは侮蔑の笑みを獲物に向けた。
その心に湧き上がる感情は怒りであり、勢いよく振り下ろされた鋭い剣の切っ先がヴァンパイアの太腿を貫いて体と地面を縫い付ける。
……次の瞬間、例えるなら狼の咆哮にも似た悲鳴が深い森の中に木霊した。
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