127: ◆Xz5sQ/W/66[saga]
2017/12/07(木) 19:21:18.38 ID:oBiTvi6A0
===18.
季節は十二月になった。道行く人はコートを着込み、鞄を持つ手をかじかませながら職場や学校へ歩いていく。
ビニール袋を手に下げた買い物帰りの主婦もまた、家に帰ればハンドクリームをその手に塗りたくることに違いない。
そんな人通りを眺めながら、担当アイドルを待つプロデューサーも両手を擦り合わせている。
二、三度擦ってしばし休み、冷えて来たならばまた擦って。
忙しなく手を動かすその様は、もしかすると彼の前世はハエだったのではないかと他人に思わせるほどであった。
「くぅぅ〜……しかし、ホントに今日はよく冷えるぜ」
はぁっと吐いた息も白く。空に向けて悪態をついた彼の背後から誰かの足音が聞こえて来る。
振り向けば、貸しビルの狭い階段を降りて来たばかりの大神環が彼を見上げ。
「お待たせおやぶん!」
「おう、お帰り」
「たまき、一人でもレッスンちゃんと頑張ったよ!」
「そうか? よしよし偉いじゃないか!」
くしゃくしゃと頭を撫でられて、環は「くふふ♪」と喜びの声を上げた。
そしてそのままプロデューサーの伸ばした手は、彼女の首元に引っ掛けられているだけのマフラーへと向かっていく。
「後はコイツもちゃんと巻いて……ジャンパーのチャックも締めなくちゃな」
すると環はマフラーを巻かれながら「えぇ〜? いいよ、寒くないし」と不満げに唇を尖らせた。
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