6:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:24:39.65 ID:E5Im33K60
自然とわたしたちの足はいつも通り街の外れの並木道へと向かっていた。昼であっても通る者の少ない、街からいくらも離れた並木道にはもはや誰一人も見当たらなかった。そういう人達にとって、ここはいわゆる穴場なのだ。
ゆっくりと並木道を歩く。ざわざわと葉を揺らし、体を透いて流れていく風が心地良い。薄着では少し寒さを感じてしまうけれど。
ミミちゃんと手を繋いでこの並木道を歩けたならとても素敵だろうな。
そうか、繋いでしまえばいい。
7:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:25:12.70 ID:E5Im33K60
わたしが道を歩く時にはミミちゃんが隣にいてほしい。こんなふうに同じ道を歩くことが出来なかったとしても、ミミちゃんの存在を感じて繋がっていることが信じられるのならば、きっとわたしは歩き続ける。彼女はいつだってわたしに勇気をくれる。
人は全く同じ道を歩くことはできないけれど、今わたしたちは手を取り合い並木道を歩いている。
ミミちゃんと隣り合って歩く、なんでもない時間。大切な人と過ごす時間が、なんでもない日常が、何より大切であることをわたしは知っている。
「ねえ、ミミちゃん」
8:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:26:01.19 ID:E5Im33K60
そんな気持ちを伝えようとミミちゃんを見たその時。とくん、と胸が揺れた。
きらきらと零れる木漏れ日の輝きを背に、ミミちゃんはその端正な顔をわたしに向けている。
艶のある黒髪はその木漏れ日を星空のように反射して。小さい顔にぱっちりと開く紫色の大きな眼、長いまつ毛、小さな鼻。柔らかな唇は優しく微笑んでいる。
いつも見ているはずの彼女の顔が、やけにくっきりとわたしの目に映った。
9:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:26:41.85 ID:E5Im33K60
「一緒だね」
「……何が?」
当たり前だけれど、とにかくで出してしまったわたしの唐突な言葉に彼女は戸惑っている。タイミングを逃して改めて言いたかったことを整理すると、言葉にするのが少し恥ずかしくなってしまった。
わたしだけが知っていればいいか。笑ってごまかそう。
10:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:27:24.67 ID:E5Im33K60
ミミちゃんは出会った時と比べてずっと優しい顔を見せるようになった。出会ったばかりの時のミミちゃんにはつんつんした態度でいつも怒っているような印象を持っていた。いつからこんなふうな顔を見せるようになったのかな。
ふと、あの時彼女がわたしと出会えてよかったと言ってくれたときのことを思い出した。お母さんが死んでしまっていたことを知って、泣いていたわたしを優しく慰めてくれた時のこと。
わたしが彼女を変えられたのだとしたら嬉しいな。うん、そう思っておこう。
どうやら昇ってきた太陽の眩しさに目を細めた。赤褐色と灰色の煉瓦の敷かれた並木道が、葉の形でくっきりと明暗に分けられる。日に隔たれるはずのふたりの影は、繋がってひとつになっていた。
11:名無しNIPPER[saga saga]
2017/09/16(土) 19:27:53.71 ID:E5Im33K60
終わり
12:名無しNIPPER[sage]
2017/09/16(土) 22:31:16.58 ID:3SYpI1Yg0
乙!
13:名無しNIPPER[sage]
2017/09/16(土) 22:33:46.00 ID:DQOE8c6no
すごく良かった
14:名無しNIPPER[sage]
2017/09/17(日) 03:53:52.00 ID:1nn4Olib0
すばらしい
15:名無しNIPPER[sage]
2017/09/17(日) 15:36:26.84 ID:YOzjL2lDo
乙
16:名無しNIPPER[sage]
2017/09/18(月) 06:46:57.94 ID:8MiPr9cDO
△少しづつ
○少しずつ
×すれ違る
○すれ違う
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